そして、わたしの頭を昔のように乱暴に撫でると、「綾乃」と言い聞かせるような声色で名前を呼んだ。
「綾乃、テレビ見よう」
兄がわたしの肩を抱いて、テレビをつける。再会した感動も束の間、突然テレビを見ようと言い出すことを不思議に思い、テレビと横にある顔を交互に見てしまう。
「お兄ちゃん、テレビって今?」
兄は話を聞いていなくて、テレビの画面を真っ直ぐ見つめていた。
「ねえ、なんで」
すると、映し出された画面には、リポーターが興奮気味に話している姿と「Legacy RYU 緊急記者会見」という大きな文字。
「なに……これ」
「龍介くんと俺で決めた。勝手なことしてごめんな。でも、兄ちゃんは綾乃には一番好きな人の傍で笑っていてほしい」
「どういう——」
「龍介くんに全部聞いたんだ。こんなことにならないと決断できない俺も本当にどうしようもないけど、俺が綾乃のためにできることをしたいってやっと踏ん切りがついた。綾乃との約束を守らないとって」
「……約束?」
兄の言葉をすべて理解する間もなく、テレビの中から、慌ただしく声が聞こえてくる。
龍介さんが緊張した面持ちで背筋を伸ばして、その会場に入ってくると一斉にカメラのフラッシュが焚かれて画面が白い光で飛ぶ。彼は深く一礼して、手にしたマイクを唇に近づける。
『本日はお集まりいただき、ありがとうございます。LegacyのRYUです。僕は、僕自身の言葉で皆さんにお伝えしたいことがあり、本日このような場を設けていただきました。よろしくお願いいたします』
今日の龍介さんは少し色の薄いサングラスで、その真剣な瞳が見える。
『毎年行くハワイで、ひとつの出会いがありました。偶然の出会いを重ね、一緒に過ごし、たくさんのことを話して、少しずつお互いのことを知っていきました。その人は、ずっと一人で道なき道を進んできて、様々な困難があっても何を恨むでもなく、ただ前を向いて、ただ真っ直ぐに歩いてきました』
「お兄ちゃん、これ」
「綾乃、ちゃんと聞いて」
テレビの中では、龍介さんが短く息を吐いてその肩が上下する。
『僕が大切に思うもの、メンバーや事務所、そしてなによりファンの皆さんを同じように大切に思い、守ろうとしてくれる。そんな彼女を、僕は隣で支えたい、ずっと守っていきたいと思うようになりました。Legacy RYUは、この場をお借りし、その女性と、この先の人生を共に歩んでいくことを発表いたします』
龍介さんが、はっきりとそう告げた。一瞬、世界から音が消えた気がした。テレビの中の記者たちも、息を呑んでいるのが分かる。
嘘みたいに静まり返った空気の中、彼の言葉だけが、わたしの鼓膜を震わせる。結婚。彼が、わたしと。夢だと思っていた未来を、彼は今、現実のものとして世界中に宣言したのだ。膝から崩れ落ちそうになるのを、兄の手が支えてくれた。
「綾乃、テレビ見よう」
兄がわたしの肩を抱いて、テレビをつける。再会した感動も束の間、突然テレビを見ようと言い出すことを不思議に思い、テレビと横にある顔を交互に見てしまう。
「お兄ちゃん、テレビって今?」
兄は話を聞いていなくて、テレビの画面を真っ直ぐ見つめていた。
「ねえ、なんで」
すると、映し出された画面には、リポーターが興奮気味に話している姿と「Legacy RYU 緊急記者会見」という大きな文字。
「なに……これ」
「龍介くんと俺で決めた。勝手なことしてごめんな。でも、兄ちゃんは綾乃には一番好きな人の傍で笑っていてほしい」
「どういう——」
「龍介くんに全部聞いたんだ。こんなことにならないと決断できない俺も本当にどうしようもないけど、俺が綾乃のためにできることをしたいってやっと踏ん切りがついた。綾乃との約束を守らないとって」
「……約束?」
兄の言葉をすべて理解する間もなく、テレビの中から、慌ただしく声が聞こえてくる。
龍介さんが緊張した面持ちで背筋を伸ばして、その会場に入ってくると一斉にカメラのフラッシュが焚かれて画面が白い光で飛ぶ。彼は深く一礼して、手にしたマイクを唇に近づける。
『本日はお集まりいただき、ありがとうございます。LegacyのRYUです。僕は、僕自身の言葉で皆さんにお伝えしたいことがあり、本日このような場を設けていただきました。よろしくお願いいたします』
今日の龍介さんは少し色の薄いサングラスで、その真剣な瞳が見える。
『毎年行くハワイで、ひとつの出会いがありました。偶然の出会いを重ね、一緒に過ごし、たくさんのことを話して、少しずつお互いのことを知っていきました。その人は、ずっと一人で道なき道を進んできて、様々な困難があっても何を恨むでもなく、ただ前を向いて、ただ真っ直ぐに歩いてきました』
「お兄ちゃん、これ」
「綾乃、ちゃんと聞いて」
テレビの中では、龍介さんが短く息を吐いてその肩が上下する。
『僕が大切に思うもの、メンバーや事務所、そしてなによりファンの皆さんを同じように大切に思い、守ろうとしてくれる。そんな彼女を、僕は隣で支えたい、ずっと守っていきたいと思うようになりました。Legacy RYUは、この場をお借りし、その女性と、この先の人生を共に歩んでいくことを発表いたします』
龍介さんが、はっきりとそう告げた。一瞬、世界から音が消えた気がした。テレビの中の記者たちも、息を呑んでいるのが分かる。
嘘みたいに静まり返った空気の中、彼の言葉だけが、わたしの鼓膜を震わせる。結婚。彼が、わたしと。夢だと思っていた未来を、彼は今、現実のものとして世界中に宣言したのだ。膝から崩れ落ちそうになるのを、兄の手が支えてくれた。


