シンデレラ・スキャンダル

 どうして、この人から離れられると思ったのだろう。どうして、この温もりを失くしても生きていけると思えたのだろう。いつだって真っ直ぐ届く言葉が、わたしを照らしてくれる。

「龍介さんと……」

「うん」

「この先もずっと、龍介さんと生きていきたい」

 一つだけ望んでいいのなら、あなたとの未来を選びたい。

「綾乃がそう思ってくれるなら、俺がやることは一つだけだよ。俺との写真のことだって、お兄さんのことだって、大丈夫だから。俺たちは潰されたりしないよ」

 真っ直ぐな瞳と、温かい胸と、そして力強い言葉。

「もう一人でなんとかしようとしなくていい。俺がいるよ。二人で……みんなで乗り越えよう。だから、俺のことも、Legacyのことも信じて、待っていて」

 龍介さんの言葉は魔法みたい。あんなに不安で埋め尽くされていた心が、今は龍介さんを真っ直ぐ見据えている。

 そして、体が少し離されると、龍介さんの右手が彼の上着の右ポケットを探る。その手は、わたしの目の前に差し出された。ゆっくり開かれた龍介さんの手のひらの中に、二つ折りにされた小さな紙。彼を見上げれば、微笑みながら頷いてくれる。

「会いたかった人が、ここで待ってるよ」

 龍介さんの言葉の意味を理解できないまま、恐る恐るそれに手を伸ばして受け取り、ゆっくりと開いてみれば、そこには千葉県の住所。千葉に住んでいるわたしも、知らないその場所。その名は、「薬物更生施設 ひまわりの里」。龍介さんが何度も足を運んでいた場所。

「本当は俊則さんともっと早く会わせてあげたかったんだけど、中々話が進まなくて……」

 記憶のピースが音を立ててハマっていく。早朝の外出も。千葉へ訪問も。

「……まさか、ずっと」

 彼はたった一人で、わたしの失われた家族を探してくれていたのだ。

「遅くなってごめんね」

 謝る彼の顔が、涙で滲んで見えない。どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう。 紙を握りしめたまま、わたしは崩れ落ちるように彼に(すが)りついた。

 龍介さんは、いつも教えてくれる。人を大切にするということは、人を想うということは、こういうことなんだと。あんなに忙しい中で、寝る時間もほとんどない中で、龍介さんがしてくれていたことがやっとわかる。

「ちゃんと自分の気持ちを伝えておいで。寂しかったことも、会いたかったことも、ずっと待っていたことも。明日、俺はやらなきゃいけないことがあるから、一緒には行けないけど……」

「龍介さん……」

「明日の夕方、またここで会おう。俺はけじめをつけてくるよ」

「けじめ?」

「何があっても、大切なものすべてを守れるように」