シンデレラ・スキャンダル

「綾乃!」

 大きな足音とともに、懐かしい声が聞こえた。そして、隣からは栞ちゃんが息を呑む音。

「ユウ、ト……」

「綾乃、良かった!」

 背の高い優くんの長い腕に抱きしめられれば、衣装のままの優くんからは、ほんのり汗のにおいがした。髪もメイクもそのまま。

「優くん」

「大丈夫だったの? 心配したんだぞ。龍介さんだって、どれだけ心配したと思う? 何回電話しても繋がらなくて……最後は電話自体……あの日、ケガ、ケガとかっ」

 首を横に振って、優くんの言葉に応える。今はそれが精いっぱい。

「まじで良かった、無事で」

「ごめ……っ」

「龍介さんもう少しで来るから……あ、ごめん。友達?」

 優くんが栞ちゃんに気付いたようで、わたしから手を離す。わたしは彼女に手を差し伸べて、その体に寄り添うように立つ。まだ揺れ動く心を支えてもらうように。

「栞ちゃん。優くんのファンだって話したことあるでしょ? 今日は栞ちゃんに誘ってもらって」

「ああ、あのサイン書いた」

「初めまして。その節は、ありがとうございました」

「本当に妹みたい。喋り方も雰囲気も、まんま綾乃。そっくり」

「そう、かな」

「うん……あ、仁さん、徹さん」

 何人かが走る足音が近づいてくる。その音が大きくなればなるほどに、手や足が震えるだけではおさまらずに、体そのものが震えだす。

「綾乃ちゃん、良かった。龍、もう来ると思うから」

「あの、わたしやっぱり」

「だめだって! 綾乃、このまま終わりにするの!? 終わりにできんの!?」

 肩を強く掴まれて、体が大きく揺れる。

「おい、優斗」

「でも、会えないっ」

 首を振るわたしを優くんが覗き込むようにして見つめている。

「龍介さんが何かしたの?」

「……違う」

「嫌いになった?」

「違うの……嫌いになんかなれない」

「じゃあ、どうして? 綾乃、俺には教えてよ。なにがあったの?」

 肩を掴む優くんの手は優しくて、まるで龍介さんのように温かい。綺麗な二重に縁取られた瞳がわたしを見つめている。

「綾乃さん、ちゃんと話しましょう?」

「龍介さんなら、なんとかしてくれるから。綾乃のためなら、綾乃を守れるなら、あの人はなんでもするよ。捨て身になるとかそんなんじゃなくて、ちゃんと守ってくれる。考えてくれる。龍介さんならっ」

「ゆう、くん……」

「俺も綾乃のことを守りたいよ。龍介さんの恋人だからっていうことだけじゃない。俺の大切な友達だから。綾乃、なにがあったか話して」

「……写真」

「写真?」

「写真が……卓也に」

 声が喉から出ずに、唇の間で空気と共に掠れて出ていく。

「田辺さん? 写真撮られたの?」

「龍介さんとの写真が……お兄ちゃんが」

 テーブルの上に投げ出された、わたしと龍介さんの写真。兄の調査報告が書かれた白い紙。わたしを射抜くような卓也の瞳。タバコの匂い。ガラスが割れる音。粉々の画面。全てが鮮明に頭の中に蘇る。

 そして、時計の針がカチリと音を立てて、わたしを呼んだ。