シンデレラ・スキャンダル

 龍介さんの姿が何度もよみがえる。大好きな人。愛している人。どんな言葉で言い表しても足りない気がする程に、恋しい人。頬に残る涙の跡をそのままに、何度か頷いて、それから栞ちゃんを見た。

「栞ちゃん、連れてきてくれてありがとう」

「……綾乃さん、ハワイで出会ったのは、誰ですか?」

 もう気付いている。もうわかっている。彼女の瞳を見つめたまま、ゆっくりと頷けば、彼女の瞳から涙が零れ落ちていく。

「黙ってて、ごめんね」

「どうして……」

 言葉はそれ以上続かずに、静かに嗚咽が零れる。ずっと一緒にいるから、彼女がなぜ泣いているのかわかる。

「ごめんね」

 もう一度そう告げて、栞ちゃんの手をそっと握った。

 会場から出ていく人々の足音や話し声でざわつく中、視界の端で通路を走ってくる人の影をとらえた。どこか見覚えのあるその人は、どんどんこちらに近づいてきて、とうとうわたしの隣に来ると腰をかがめる。

「綾乃ちゃん」

「……畑中さん」

「良かった。綾乃ちゃんだね。みんな、ずっと心配してたんだよ」

「あの……」

「一緒に来て。話したいことがあるから」

 突然の畑中さんの姿に戸惑いを隠せずに、なにも答えられずにいるわたしの右腕に手が添えられた。そちらを見れば栞ちゃんが心配そうな顔を向けていた。

「綾乃さん、どなたですか?」

「お友達? もし大丈夫なら一緒に」

「でも」

「綾乃さん、行きましょう」

「え?」

「じゃあ、こっちに」

 二人とも、答えを聞かずに歩き出す。わたしは栞ちゃんに腕を引かれるまま、半ば引きずられるようにして歩いた。

「しお、栞ちゃん、待って」

「大丈夫です」

 彼女は畑中さんの後を確かな足取りで進んでいく。すぐ近くにあるドアを開けて、明らかにスタッフのいる通路を進み、更に警備員のいる先に入る。同じ黒いシャツを着ている人たちが、広いとは言えない通路を行きかっていた。

 通路を進みながら、ふと右手を見れば、記憶通り出入り口のドアがあって、そこから何人ものスタッフが出たり入ったりを繰り返している。そこから少し進んだところで畑中さんが止まり、こちらを振り返る。その場所の先に控室があるらしく、警備の人と思われる体格のいいスーツを着た男性が立っていた。

「綾乃ちゃん、ここで待ってて。絶対に待ってて」

「畑中さん」

「連れてくるから。龍に会ってやって。優斗も徹も仁さんも心配してる。ね? 待っててね! 本当にすぐ、すぐだから!」

 畑中さんはそう言って、更に奥に走っていく。

「綾乃さん、会わなきゃだめですよ」

「栞ちゃん……」

「このままなんて、わたしは嫌です。絶対」

 強い眼差しが向けられて、また心が揺れだす。会いたいと願う心と、いけないと思う理性がせめぎ合うわたしの中は、今にもばらばらに砕け散りそう。

 でも、もう一度龍介さんに会ってしまったら、再び離れることなんてできない。龍介さんの声を聞いて、温もりを感じたら、その胸に飛び込んでしまいたくなる。