シンデレラ・スキャンダル



 病院を出たわたしは、幕張に用事があると言う栞ちゃんと一緒にバスに乗り込んだ。まだ昼過ぎだったからか、土曜日の下りのバスに乗車したのはわたしと栞ちゃんの二人だけ。

 バスが幕張で高速を降りると同時に、栞ちゃんの大きな声が響いた。

「綾乃さん、わたし……もう限界です。その人、一体なんなんですか! 綾乃さんのことをなんだと思ってるんですか!」

「栞ちゃん、ボリュームを……」

「結婚しないくせに自分の子供を産めって……家とかお金とかそんなの」

 栞ちゃんには、龍介さんだということだけは伏せて、すべてを話した。彼女の瞳にはみるみるうちに涙が溢れて零れだしていく。彼女の大きな瞳から流れ落ちる涙が止まるように願いながら、わたしはその涙を拭う。「泣かないで」と告げると、彼女の口から嗚咽が零れていく。

 だから、「わたしも、ちゃんと言いたいことを言ったよ。だから大丈夫だよ」と伝えて頭を撫でる。

「卓也に、あんな風に自分の気持ちをぶつけたのは初めてだった。いつも卓也の言うとおりに、望むとおりにしてきたから、あっちも驚いたんだと思う。あの日、すぐに部屋を出て行って、ずっと戻ってきてないの。わたしは……卓也と過ごさなくてよかったって、ほっとしてる」

「綾乃さん、どうして離れないんですか? お兄さんのことがあっても、綾乃さんのことちゃんと幸せにしてくれる人はいると思うんです。それにハワイで出会った人にだって話せば」

 できることなら、わたしもそうしたい。それができたなら。でも、卓也は兄の情報と共に写真を握っている。それが二つ同時に世間に広められてしまえば、龍介さんやLegacyに傷がつく。

 あんなに大きくて真っ直ぐな愛情をくれた龍介さんに、わたしができることはこれぐらいしかない。幸せな日々をもらって、返すこともできないから、こうして彼を守ることしかできない。だから、彼女に向かって小さく首を横に振る。

「できないの」

「どうして?」

「わたしがいけないの。身の程もわきまえずに、王子様に恋をしたから。彼を守りたいの」

 笑いながらそう答えると、栞ちゃんが目を丸くして、「王子様?」と呟いた。その疑問には答えずに、幕張メッセの停留所でバスを降りる。