シンデレラ・スキャンダル

「そうだよ。綾乃は子供好きだろ? 母親になったほうがいい。子供ができれば、こんなくだらないことはすぐ忘れるよ」

 ゾッとするほど優しい声で語られる、地獄のような未来図。この男は一体何を言っているんだろう。

「ハワイはさ、子供ができたら海外なんて中々行けないだろうから、行かせてあげたいなと思って用意したんだよ。それなのに……こんなことなら、ハワイに行く前に言っておけばよかった。俺も配慮が足りなかったね」

「……こどもって」

「あ、そうだ。ただ、ひとつだけ。わかってると思うけど、結婚はしないから。親はいない、兄は失踪して薬物中毒なんて、そんな女と結婚するやつなんていないよ。でも、俺は綾乃のことを大切に思ってるから、どうにかして受け入れてあげたいんだ」

 ああ……そうか。

「東京にマンションも買ってある。不自由のない生活も保障する。子育ては任せるから、綾乃の好きにしていい。俺はどうせ海外が多くて、ほとんど一緒にはいられないし。ただ、学校は俺と同じように国立の最高峰に進ませること」

 言葉が……

「それから、俺が他の女と結婚しても、子供の母親として必ず良い暮らしはさせるから安心して」

 言葉が宙に舞って、バラバラに散っていくみたい。卓也と出会ったのは、五年前。五年間も一緒にいたはずの、目の前の男は、わたしのことを少しも見ようとしていない。わたしの瞳から涙が(あふ)れて、頬を伝っていく。

「綾乃? 不安なの? 大丈夫だって。きっと子供はできるよ」

 わたしの気持ちも、涙も受け止められることはない。抱き締められているはずなのに、少しも温かくない。きっとお金に不自由することもなく、家も都心の高級と言われるマンションが与えられる。わたしはこんな生活が欲しかったのだろうか。

 目を閉じると龍介さんと過ごした日々が蘇る。ハワイで過ごした、夢のような日々。日本で過ごした、穏やかで満たされた日々。

 刹那に瞬いて散ってしまうと覚悟した日々が、ただ今は恋しい。あの日々を知らなければ、龍介さんと出会わなければ、きっとこんな想いをすることもなかった。龍介さんの優しさを、温かさを、知らなければ。

 龍介さんの声が聴きたい。龍介さんの温かさに触れたい。龍介さん、あなたが恋しい。