シンデレラ・スキャンダル

 傷つけたくない。彼の笑顔を守りたい。彼が守ってくれるようにわたしも彼を守りたい。そう思ったのに、それさえもできない。

「たく、や……龍介さんには、もう……なにもしないで」

「綾乃の言い方じゃ、伝わらない」

「もう、連絡もとらないし会わないから、龍介さんには……お願い」

 卓也の顔を見上げる。こんな目は、見たことがない。恋人や友人を見る目ではない。それでも、わたしはその目を真っ向から受け止める。

「綾乃次第だよ」

「卓也といるって言ってるでしょ!」

 龍介さん、わたしはこうしてしかあなたを守れない。あなたがそうしてくれたように、温かく大切に守ることができない。どうしたら、大切な人をただ幸せにすることができるのだろう。

 震えが止まらずにいるわたしを気にする素振りも見せずに卓也が隣に座ってきたと思ったら、わたしが顔に当てていた手を勢いよく掴んだ。

「いっ——!」

「綾乃、言い忘れてたことがある。俺といるんだよね?」

「……そう、よ」

「じゃあ、この前言ってた相談、今するよ」

 明るい上機嫌な声が耳に届く。相談という単語がぼんやりと頭の中に浮かんだ。ハワイで相談したいことがあると言っていたことを、ようやく思い出す。でも頭の中に靄がかかっていて、それは中々晴れてくれない。

「もう相談でもないかぁ。初めから話しておけばよかった。そしたら綾乃がこんなに辛い思いしなくて済んだのにな。綾乃、本当にごめんな」

 ついさっき、スマホを投げつけて拳で割った人とは思えない、優しげな声。ゆっくりとわたしの頭を撫でる手。額に落とされる唇。「怖い」それ以外の言葉も、感情も出てこない。

「俺の子供を産んでほしいんだ」

「……は?」

 わたしの声は、喉奥で掠れた。目の前の男に届かないほど小さく。

「男の子ね。綾乃も、もう二十八歳だし、いいよね?」

「……こど、も?」

 彼は慈愛に満ちた瞳でわたしを見つめ、優しく髪を梳く。まるで、愛しいペットを愛でるように。