シンデレラ・スキャンダル

 わたしは守りたい。龍介さんが大切にしているものすべてを。自分たちで作り上げた会社も、一緒に戦い抜いてきた仲間も、応援してくれるファンも。すべてが、すべてが大切なの。だって龍介さんが大切だから。

 どれだけ身を削り、どれだけ必死になって夢を追いかけているのか、出会ってから、たった数か月のわたしでさえも分かる。それを壊すわけにはいかない。龍介さんの今までの十二年間を、あの努力を、あの絆を壊していいはずがない。

 ——傷をつけるわけにはいかない。龍介さんの名に。Legacyという名に。

 俯くわたしの首にかかるネックレスを卓也が持ち上げて、そのまま上に力を入れる。

「いっ」

 首にネックレスが食い込んでいく。

「綾乃、お前は彼に相応しくないんだよ。彼なら、お前じゃなくてもいい女が周りにいっぱいいるよ。シンデレラごっこは終わり。わかるだろ? 彼をスキャンダルの的にしたい? 守りたくないの?」

 龍介さんの声が聞こえる。抱き締めてくれる腕、温かい胸、わたしを包む香り。一度、強く目を閉じる。

「……わ、かった」

「どうする?」

「……たく、やとっ——ッ!」

 ネックレスを持つ手がぐるりと捻られ、隙間がなくなり喉が締まっていく。くぐもった息が漏れる音が喉から溢れる。

「なに? はっきり言え」

「卓也と、いる」

「それなら、今すぐそいつに電話して、二度と会うな。いいな」

 そう言うと、ネックレスを掴む手に再び力を入れた。

「やっ——!」

 更に首に食い込んで痛みを覚えたのも束の間、細いチェーンは小さく悲鳴のような音を立てた。首元の拘束が解けるのと同時に、キラキラと光る何かが宙を舞う。

 龍介さんがくれた、指輪のチャーム。それはスローモーションのように床に落ち、乾いた音を立てて転がった。

「ぁ……」

 わたしたちの絆が、音を立てて崩れていく。手を伸ばそうとしても、体は金縛りにあったように動かない。

「あいつの家の鍵出せ。一緒に事務所に送るから」

 彼を……ううん、彼が大切にしているものすべてを守りたい。傍に居られなくてもいい。彼を、彼の大切なものを守ることができるのなら、わたしの選択肢は一つだけ。

「電話をさせてやるのは、俺のせめてもの優しさだよ。お互いに、別れはきちんとしておいた方がいいだろう?」

 目の前に差し出されたスマホを、震えの止まらない手で受け取る。龍介さんと電話をするときは、いつだって幸せだったのに。龍介さんの声を聞けることが、ただ嬉しかったから。