心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。一気に体中に鳥肌が立ち、握りしめた両手が小刻みに震えだす。喉の奥がひりついて、言葉が出てこない。
「最初からちゃんと言ってやったろ。二か月の間に夢から覚めろって」
「……な、に」
「俺以外の男と本当にやっていけると思ってる? 綾乃は結局、俺を選ぶんだよ。それぐらいわかれよ」
「なに……言ってるの」
卓也がゆっくりと立ち上がり、デスクの脇に置いていた自分の鞄の中に手を入れて、茶封筒を取り出した。卓也が微笑みながら茶封筒をガラステーブルの上に投げ捨てるように放つと、中からいくつかの写真が出てきた。
「お前、自分がなにをしているかわかってんの?」
その封筒と写真をぼんやり見つめた。そこに写っていたのは、顔を寄せ合って見つめ合う男女。
「……どう、して」
「他の男なんかに体を差し出して、どういうつもりなの?」
「なに、それ……今までだって」
「俺と別れてから、俺以外と寝てないだろ」
「え?」
「綾乃のことはずっと見てたよ。ずっと前から……綾乃の行動はすべて俺に報告が入るようになってたんだよ。ハワイは一緒に過ごすつもりだったから、監視させてなかったんだ。それが失敗だったな」
「かん……」
(——監視?)
瞬く間に血の気が引いていく。その言葉を理解したくない、そう思う程に。5年前から知っている人間の言動に、寒気と恐怖とを感じる。
「ハワイで出会った男に、簡単に体を差し出すような女だとは思わなかった。様子を見てやろうと思えば、どんどんのめり込んで。あのLegacyの事務所との飲み会の日、お前、赤坂のマンションにいただろ? あんなところ、普通の人間は住めない。そのときにわかったんだ。あのLegacyが相手だって」
「あの日も……監視、して」
「スマホだよ。綾乃に持たせたじゃないか。居場所がつかめてよかったよ」
「そんな……そ、それに、これ、写真、マンションの中」
「マンションがわかってるんだから、後はそれなりの相手にそれなりの額を払えば撮れるよ」
「こんなこと」
「それから、もう一つ」
そう言った卓也の手がわたしの目の前に資料の束を出した。A4用紙に小さな字が連なる。その紙の一番上には、大きな文字。
——『松嶋俊則 調査報告書』
兄の名前が書かれた紙に、心臓が大きな音を立てる。その紙に手を伸ばして、受け取ろうとすると、震える自分の手が視界に入った。
「最初からちゃんと言ってやったろ。二か月の間に夢から覚めろって」
「……な、に」
「俺以外の男と本当にやっていけると思ってる? 綾乃は結局、俺を選ぶんだよ。それぐらいわかれよ」
「なに……言ってるの」
卓也がゆっくりと立ち上がり、デスクの脇に置いていた自分の鞄の中に手を入れて、茶封筒を取り出した。卓也が微笑みながら茶封筒をガラステーブルの上に投げ捨てるように放つと、中からいくつかの写真が出てきた。
「お前、自分がなにをしているかわかってんの?」
その封筒と写真をぼんやり見つめた。そこに写っていたのは、顔を寄せ合って見つめ合う男女。
「……どう、して」
「他の男なんかに体を差し出して、どういうつもりなの?」
「なに、それ……今までだって」
「俺と別れてから、俺以外と寝てないだろ」
「え?」
「綾乃のことはずっと見てたよ。ずっと前から……綾乃の行動はすべて俺に報告が入るようになってたんだよ。ハワイは一緒に過ごすつもりだったから、監視させてなかったんだ。それが失敗だったな」
「かん……」
(——監視?)
瞬く間に血の気が引いていく。その言葉を理解したくない、そう思う程に。5年前から知っている人間の言動に、寒気と恐怖とを感じる。
「ハワイで出会った男に、簡単に体を差し出すような女だとは思わなかった。様子を見てやろうと思えば、どんどんのめり込んで。あのLegacyの事務所との飲み会の日、お前、赤坂のマンションにいただろ? あんなところ、普通の人間は住めない。そのときにわかったんだ。あのLegacyが相手だって」
「あの日も……監視、して」
「スマホだよ。綾乃に持たせたじゃないか。居場所がつかめてよかったよ」
「そんな……そ、それに、これ、写真、マンションの中」
「マンションがわかってるんだから、後はそれなりの相手にそれなりの額を払えば撮れるよ」
「こんなこと」
「それから、もう一つ」
そう言った卓也の手がわたしの目の前に資料の束を出した。A4用紙に小さな字が連なる。その紙の一番上には、大きな文字。
——『松嶋俊則 調査報告書』
兄の名前が書かれた紙に、心臓が大きな音を立てる。その紙に手を伸ばして、受け取ろうとすると、震える自分の手が視界に入った。


