神様は誰?

――最初の数日、相談は軽かった。

画面の中で読む限り、それはまだ、日常の形をしていた。

【神様の声/DM】

相談ID:#003
『仲良かった友達に最近避けられています。理由を聞くのが怖いです。こっちから話しかけるべきですか?』

相談ID:#004
『部活の先輩が怖いです。悪い人ではないけど、LINEが来るたびに息が詰まります。部活を辞めたいって思うのは逃げですか?』

相談ID:#005
『元カレに借りていたものを返せていません。会いたくないけど、返さないままなのも嫌です』

それぞれに、六人で意見を出した。

新はすぐに強い言葉を出す。

「避けられてるなら聞けばよくない? 黙ってても怖いだけじゃん。先輩が怖いなら辞めれば? 部活で死ぬわけじゃないし。元カレの物は返せ。以上」

慧はそのたびに眉間に皺を寄せる。

「言い方。直接命令するな。相手の事情を決めつけるな」

杏は相談者の気持ちに寄っていく。

「でも、理由を聞くのって本当に怖いよ。部活を辞めたら、周りから何か言われるかも。元カレに会うのが無理なら、友達に頼むとか……」

陸は仕組みで考える。

「選択肢を提示する形がいいんじゃない? 安全な返却方法とか、一般論にすれば」

咲は、少し遅れて言う。

「その子が、何を一番恐れているか。避けられることじゃなくて、理由を知ることかもしれない。部活じゃなくて、辞めた後に自分がどう見られるかかもしれない」

私は、みんなの言葉を聞きながら、スマホのメモ帳に文字を打つ。

そのまま載せると、軽すぎる。
そのまま載せると、刺さりすぎる。
そのまま載せると、私たちの顔が見える。

だから削る。

新の雑さを削る。
慧の硬さを削る。
杏の優しさを少し締める。
陸の説明を短くする。
咲の冷たさをぼかす。

そして、誰の言葉でもないものにする。

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――理由を知らないまま傷つくことを、優しさとは呼びません』

18:08
返信 2 拡散 4 いいね 17

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――離れることは、裏切りではありません。息ができる場所へ行きなさい』

18:14
返信 5 拡散 9 いいね 31

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――返されなかったものは、物より先に心を重くします』

18:16
返信 1 拡散 6 いいね 22

――投稿するたびに、少しずつ反応が増えた。

「これ、私のことかと思った」

「神様わかりすぎ」

「刺さった」

「救われた」

救われた。

その言葉を見るたびに、杏の顔が明るくなった。

「ねえ、これ見て」

【神様の声/DM】

『部活のことで相談した者です。今日、顧問に話しました。辞めるかはまだ決めてないけど、初めて息ができました。ありがとうございました』

杏はそれを見て、泣きそうな顔で笑った。

「救われたって言われると、やめられない」

その言葉は、とても正直だった。

人の痛みに近づきすぎる杏らしい言葉だった。

「いいことしてるじゃん」

新が言った。

「まあ、今のところは」

慧は慎重に言った。

「今のところって何」

「調子に乗るなってこと」

「慧って、楽しいこと全部にブレーキつけるよね」

「ブレーキがない車に乗りたいのか」

「例えが正しすぎて腹立つ」

新が笑った。
私も笑った。

笑ってしまった。