神様は誰?

――それから数日後、咲の関与は確定した。

警察が調べたログにも、陸のバックアップと同じ痕跡があった。
咲は、管理者権限を使っていた。
直接投稿はしていない。
事件の神託を書いた証拠もない。

でも、彼女は仕組みを変えていた。

短い固定フレーズを上に置き、強い語尾を出やすくし、投票選択肢の順番を変え、テンプレートの優先度を調整していた。

学校は、咲を処分した。

詳しい内容は、私たちには知らされなかった。
でも、咲がしばらく学校に来ないことだけは分かった。

クラスの中では、すぐに噂が広がった。

「桐谷さんが神様だったらしい」

「やっぱり。あの子、怖かったもん」

「見てるだけって言ってたんでしょ?」

「本当に黒幕じゃん」

黒幕。

その言葉は、あまりにも分かりやすかった。

分かりやすい言葉は、人を安心させる。

咲が黒幕なら、他の人は被害者になれる。
咲が神様なら、私たちは神様ではなくなる。
咲が悪魔なら、私たちは普通の高校生に戻れる。

でも、戻れなかった。

私は、廊下で新とすれ違った。

新は、笑わなかった。

「咲がやったんだってな」

「うん」

「じゃあ、俺らは……」

新は、そこで止まった。

続きを言わなかった。

言えなかったのだと思う。

慧は、私に言った。

「ログを出したのは正しい」

そのあと、少し間を置いて、

「でも、遅かった」

と言った。

私は頷いた。

杏は泣いた。

「咲ちゃんを止められなかった」

杏は、まだ咲を「ちゃん」で呼んだ。

陸は、何度もログを見直していた。

たぶん、彼は一生、仕組みの中に答えを探す。

【SNS投稿】

『桐谷咲こそ神様だった説』

『神様の中の人、桐谷咲だったらしい』

『見てただけの神って怖すぎ』

『咲様、逆に本物じゃん』

『桐谷咲を崇めるスレ』

私は、その文字を見て、吐き気がした。

咲が処分されても、神様は消えなかった。

むしろ、形を変えて戻ってきた。

咲を悪魔にすれば、他の人間は安心できる。
咲を神様にすれば、他の人間は信者でいられる。
咲ひとりに名前をつければ、私たちは自分たちの匿名性を取り戻せる。

そんなの、また同じだ。

また、神様を作っている。

――咲を神様にしたのは、咲じゃない。咲ひとりを神様にしたがった、私たちだった。