神様は誰?

――神様の声は消えた。

白い面のアイコンも、アカウント名も、固定投稿も、懺悔室も、外部投票も、予約投稿キューも、全部なくなった。

なくなったはずだった。

でも、三年生に進級して少し経った夜。

私は、机に向かっていた。

スマホは、前より遠くに置くようになった。
通知音も切っている。
それでも、画面が光ると、体が反応してしまう。

その夜、杏からメッセージが来た。

杏『澪、見ないほうがいいかもしれない』

見ないほうがいい。

そう言われると、人は見る。

私は、添付されたスクリーンショットを開いた。

新しいアカウントだった。

名前は、神様の声ではない。

アイコンも白い面ではなかった。

黒い背景に、細い白い線で描かれた手。
指先だけが光っている。

プロフィールには、こう書かれていた。

迷える声を、みんなで聞きます。

最初の投稿。

【匿名アカウント】

『神様の声は消えました』

次の投稿。

『でも、神様はどこにでもいます』

文体は少し違った。

私の言葉ではない。
私たちの神様とも違う。

でも、コメント欄には、もう人が集まっていた。

『戻ってきた?』

『別の人?』

『神様って名前使わないの逆に怖い』

『相談してもいいですか』

『前の神様より優しそう』

『また見てくれるんだ』

また。

その一文字で、胸の奥が冷たくなった。

神様は死なない。

アカウントを消しても、ログを出しても、処分を受けても、ニュースになっても、白い面を失っても。

誰かが見てほしいと思う。
誰かが裁いてほしいと思う。
誰かが救われたいと思う。
誰かが押す。
誰かが黙る。
誰かが面白がる。
誰かが、みんなで決めたと言う。

その瞬間、また神様は生まれる。

私はスマホを伏せなかった。

伏せる代わりに、画面を見て、息を吸った。

――神様は、誰かの中にいたんじゃない。私たちが同じ方向を向いた瞬間、その熱の中に生まれるものだった。