神様は誰?

――12月24日20時31分。

最初に上がったのは、ニュースではなかった。

誰かの短い動画だった。

【SNS投稿】

『駅前広場、何かあった? 悲鳴聞こえた』

動画は十秒もなかった。

揺れる画面。
白い光。
人の背中。
誰かの叫び声。
遠くのほうで、警備員が走る影。
ツリーの根元に集まる人の輪。

私は画面を止めた。

止めても、音は頭の中で続いていた。

悲鳴。

新がグループに貼った。

篠原新『これ違うよな』

誰も答えなかった。

違う、と誰かが言えば、少しだけ息ができたかもしれない。

でも、誰も言わなかった。

次の投稿。

【SNS投稿】

『駅前の商業施設前、救急車来た。歩道橋の方で人倒れてるっぽい』

次の投稿。

『高校生? 喧嘩? 将棋倒し? 分からんけどやばい』

次の投稿。

『白いツリーの前、規制線張られてる』

白いツリー。

その文字を見て、私は喉の奥を押さえた。

20時47分。

ニュース速報の通知が来た。

【ニュース速報】

〇〇県○○市内駅前広場で転倒事故
複数人けが 一人意識不明の重体
高校生同士のトラブルか

テレビをつけた。

母がリビングで「何?」と言った。

私は答えなかった。

画面には、駅前広場が映っていた。

毎年見ている場所だった。

白いイルミネーション。
白いツリー。
商業施設の白い壁。
歩道橋の白い手すり。

その全部が、急に神様の言葉に見えた。

――嘘は、白い場所で返される。

――見ている者の前で、罪は形を持つ。

――迷うな。返しなさい。

アナウンサーの声は、いつもより少し早かった。

「午後八時半ごろ、〇〇県○○市内の駅前広場で、十代とみられる複数の若者が関わるトラブルがあり、周囲の通行人を巻き込んで転倒事故が発生しました。一人が意識不明の重体、数人が軽傷とみられています。現場では、クリスマスイベントのため多くの人が集まっていました」

人混み。

悲鳴。

サイレン。

私は、ニュースの音を聞きながら、スマホを見た。

【六人のグループチャット】

早川慧『アカウント削除』

加賀陸『削除した』

篠原新『スクショ残ってる』

早川慧『全部消せ』

加賀陸『無理』

早川慧『無理じゃない』

加賀陸『無理なんだよ!』

篠原新『俺ら、直接言ってないよな』

早川慧『言った』

篠原新『言ってないだろ』

早川慧『神様に言わせた』

そこで、チャットが止まった。

神様に言わせた。

慧の言葉は、いつも正しい。

正しいから、痛い。

少しして、咲が送った。

桐谷咲『律は、神様の言葉を読んだ』

杏がすぐに返した。

望月杏『咲、やめて』

咲は返さなかった。

篠原新『これ、誰が悪いの』

早川慧『全員』

加賀陸『ログ上はsystem』

早川慧『ログの話をするな』

望月杏『律さんが』

そこで、杏のメッセージは途切れた。

たぶん、続きを打てなかったのだと思う。

律さんが、どうしたのか。

律さんが読んだ。
律さんが行った。
律さんが返した。
律さんが、神様の言葉を、自分への命令にした。

どれを書いても、取り返しがつかない。