神様は誰?

止まって。

そう思っても、画面の数字は止まらなかった。

【外部投票 #不明/途中経過】

赦す:5%
離れる:8%
晒す:19%
返す:17%
裁く:51%

裁く。

その言葉だけが、黒く濡れているように見えた。

クリスマスイブの夜だった。

私の部屋の窓の外では、近所の家のイルミネーションが小さく点滅していた。赤、青、白。何も知らない光だった。机の上には数学のワークが開いたままになっていて、シャーペンの先には折れた芯が刺さっている。

私は、スマホを握ったまま動けなかった。

六人のグループチャットは、壊れた機械みたいに鳴り続けていた。

【六人のグループチャット】

早川慧『陸、消せ』

加賀陸『消したいけど投票一覧に出ない』

早川慧『投稿は出てるだろ』

加賀陸『外からは出てる。内部では見えない』

篠原新『意味わかんない』

望月杏『律さんに返す。今すぐ返す』

早川慧『杏、個別DMで止めて』

桐谷咲『管理画面が二つある』

篠原新『何それ』

桐谷咲『見える画面と、動いている画面』

慧がすぐに反応した。

早川慧『咲、何を見てる』

桐谷咲『見てるだけ』

その言葉で、胸の奥が冷たくなった。

見てるだけ。

咲のいつもの言葉だった。
でも、今は冗談に聞こえなかった。

杏が、律にDMを送ったスクリーンショットを貼った。

【神様の声/DM】

『律さん。
今すぐ誰かに相談してください。
神様は、誰かを傷つけろとは言っていません。
外にいるなら、人の多い場所から離れてください。
これは命令ではありません。
あなたを止めたいだけです。』

送信時刻:19:24

既読はつかなかった。

【返信欄】

『裁く一択』

『でも晒すより返すのほうがいい』

『嘘は本人の前で返さないと』

『クリスマスイブに神様強すぎ』

【六人のグループチャット】

陸『公開返信欄の上位語を拾う設定は残ってた。オラクルのリストも参照してる。でも、内部相談は自動除外のはずだった』

杏『はず、って』

陸『はずだったんだよ! 俺は、律の相談を外部投票に出してない。出してないんだよ。信じてくれよ』

信じてくれよ。

その言葉に、胸が痛くなった。

私は信じたかった。
でも、信じるという言葉が、もう私たちの中でいちばん危ない言葉になっていた。

スマホが鳴った。

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――嘘は、白い場所で返される。

見ている者の前で、罪は形を持つ。

迷うな。返しなさい』

19:42
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私は、息を忘れた。

白い場所。

返される。

見ている者の前で。

返しなさい。

それは、私が書いた文章ではなかった。

でも、私の言葉の形をしていた。

短くて。
断定的で。
余白があって。
受け取る人が、自分の痛みに合わせて読める。

神様の文体だった。

私の文体だった。

でも、私ではなかった。

【六人のグループチャット】

早川慧『誰が書いた』

篠原新『俺じゃない』

加賀陸『俺じゃない。自動だ』

早川慧『自動を作ったのはお前だろ』

加賀陸『でもこの文は俺じゃない』

望月杏『私は止めるDMを送った』

桐谷咲『私は見てた』

早川慧『咲』

桐谷咲『本当に見てただけ』

篠原新『澪?』

その一文字で、指先が冷たくなった。

澪?

新が私の名前を送った。

責めるつもりではなかったのかもしれない。
確認しただけかもしれない。
でも、その確認は、刃物みたいだった。

葉山澪『書いてない』

送った瞬間、自分の言葉があまりにも弱く見えた。

書いてない。

私たちが何度も使ってきた言葉。

言ってない。
押してない。
決めてない。
見てただけ。
仕組みだけ。
整えただけ。

でも、神様はもう投稿していた。

返信欄が増え始める。

『白い場所ってどこ』

『駅前の広場?』

『クリスマスツリーのとこ白いよね』

『返しなさい、来た』

『神様、今日は命令してる』

『罪は形を持つ、こわ』

『見ている者の前でって、人前でってこと?』

人前で。

その解釈が、増えていく。

私たちは、そう書いていない。

でも、そう読める。

そして、そう読める言葉を、神様は言った。