神様は誰?

――その日は、それ以上何も起こらなかった。

少なくとも、私たちが見ている場所では。

家に帰って、制服を脱いで、母に「遅かったね」と言われて、「ファミレス寄ってた」と答えた。
夕飯はカレーだった。
テレビでは、芸能人の不倫ニュースをコメンテーターが真面目な顔で話していた。
誰かの間違いを、知らない人たちが正しい顔で語っている。

私はスマホを机の上に置いて、ベッドに座った。

神様の声のアカウントは、まだフォロワー一人だった。
たぶん杏がリンクを送った相談者の後輩だけ。

投稿は、いいね一つ。
誰が押したのかは分からない。

私は押していない。
そう思ってから、じゃあ誰が、と考えた。
六人のうちの誰かかもしれない。
相談者かもしれない。
間違えて押した知らない人かもしれない。

たった一つのいいねなのに、画面の白い面が少し生きて見えた。

――通知が来たのは、22時を少し過ぎた頃だった。

まず、六人のグループチャットに杏がスクリーンショットを貼った。

【六人のグループチャット】

望月杏『来た。これ』

続けて、画像が表示された。

【神様の声/DM】

『相談した者です。
今日、怖いほうを選びました。

好きな人に告白する前に、友達に話しました。
その子も同じ人を好きでした。
でも、怒られませんでした。
泣かれたけど、最後は笑ってくれました。

黙ってたら、友達をなくしてたと思います。
当たってました。
本当にその通りになりました。』

私は、画面を見たまま動けなかった。

――当たってました。

その言葉は、私の胸に妙にまっすぐ刺さった。

当てたつもりなんてなかった。
私たちは、その子の友達のことも、好きな人のことも、何も知らない。
何も知らないまま、ただ、怖いほうを選びなさい、と書いただけだ。

でも、相談者はそこに意味を見つけた。

自分の怖さを、神様の言葉で見つけた。

「偶然」

私は声に出した。

部屋には私しかいなかった。
だから、その言葉は私にしか届かなかった。

偶然。

そう言えば、胸のざわめきが少し収まる気がした。

グループチャットは、すぐに動き出した。

篠原新『え、すご』

加賀陸『マジ?』

早川慧『偶然だろ』

篠原新『偶然でもすごくない?』

望月杏『よかった』

桐谷咲『でもちょっと怖い』

今、少しだけ楽しいと思ってしまった自分に対して、胸の奥が、ぞわっとした。
怖いのに、目が離せない。嫌なのに、続きを見たい。
自分の言葉が、自分の外で勝手に大きくなる感じ。

それは、たぶん、興奮に近かった。

認めたくないけれど。

通知音が鳴った。

新だった。

篠原新『これ、面白くない?』