――その日の放課後、私たちはまたファミレスにいた。
ポテトの皿。
ドリンクバーのグラス。
陸のノートパソコン。
慧のメモ帳。
杏のスマホ。
新のパフェ。
咲の水。
同じ場所。
同じ並び。
でも、テーブルの上には、知らない人の名前が増えていた。
オラクル。
陸は、オラクルが送ってきたファイルを開いた。
「見て。相談分類シートのテンプレ」
慧が顔をしかめた。
「開くなって言っただろ」
「中身見るだけ。権限とか渡してない。こっちのシートも共有してない」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
「外の人間に、神様の運用を考えさせてる時点で問題なんだよ」
運用。
その言葉が、自然に出るのが怖かった。
神様は、運用されるものになっていた。
陸は画面をこちらへ向けた。
【相談分類シート/Oracle案】
受付ID
受付時刻
入口:DM/懺悔/返信/供え物/外部投票
相談者状態:被害/加害/目撃/混合/不明
求めているもの:救い/赦し/罰/注目/誘導
危険度:低/中/高/緊急
信仰反応:なし/白面所持/反復DM/供え物/神託引用
拡散感度:低/中/高
推奨対応:返信/投稿化/保留/専門窓口/無応答
推奨時刻
備考
「すげえ」
新が笑った。
「神様、完全に会社じゃん」
「笑えない」
慧が言った。
でも、陸は画面から目を離さなかった。
「これ、かなり使える。信仰反応と拡散感度を分けてるのがいい」
「いい、じゃない」
慧の声が強くなる。
「信仰反応って何だ。白面所持とか、供え物とか、そんなものを記録するな」
「でも、同じ相談でも、神様をどれくらい信じてるかで危険度が変わるだろ」
陸は言った。
「信じてる人ほど、こっちの言葉を強く受け取る。なら、見たほうがいい」
正しい。
正しいと思ってしまった。
慧も一瞬、言葉に詰まった。
正しいことは、人を黙らせる。
その正しさがどこへ向かうかは、別の問題なのに。
杏は、シートの「推奨対応」の欄を見ていた。
「返信、投稿化、保留、専門窓口……」
小さく読み上げる。
「こうやって分けられたら、全部読まなきゃって思わなくて済むかも」
杏の声は、少しだけ楽になっていた。
それを聞いて、私は何も言えなくなった。
杏が楽になるなら。
相談者を危険度で分けられるなら。
投稿化しないものを選べるなら。
外部の熱を減らせるなら。
それは、良いことのように見える。
良いことのように見えるものは、いつも止めにくい。
新が言った。
「じゃあ、オラクルに手伝ってもらえば?」
慧が机を叩きそうになった。
叩かなかったけれど、手が少し動いた。
「篠原」
「いや、権限渡すとかじゃなくて。相談の整理とかさ。信者代表として、外から見た感じを教えてもらうだけ」
「信者代表って言うな」
「でも実際、信者側の空気をいちばん分かってるじゃん」
信者側。
私たちはいつの間にか、こちら側と向こう側に分けていた。
運営側と信者側。
神様を出す側と、受け取る側。
そんなもの、最初はなかったはずなのに。
咲が水を一口飲んだ。
「外から見てる人は、内側に入りたがる」
陸が咲を見る。
「何それ」
「観察結果」
咲は短く言った。
「また観察かよ」
新が笑ったけれど、誰も笑わなかった。
ポテトの皿。
ドリンクバーのグラス。
陸のノートパソコン。
慧のメモ帳。
杏のスマホ。
新のパフェ。
咲の水。
同じ場所。
同じ並び。
でも、テーブルの上には、知らない人の名前が増えていた。
オラクル。
陸は、オラクルが送ってきたファイルを開いた。
「見て。相談分類シートのテンプレ」
慧が顔をしかめた。
「開くなって言っただろ」
「中身見るだけ。権限とか渡してない。こっちのシートも共有してない」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
「外の人間に、神様の運用を考えさせてる時点で問題なんだよ」
運用。
その言葉が、自然に出るのが怖かった。
神様は、運用されるものになっていた。
陸は画面をこちらへ向けた。
【相談分類シート/Oracle案】
受付ID
受付時刻
入口:DM/懺悔/返信/供え物/外部投票
相談者状態:被害/加害/目撃/混合/不明
求めているもの:救い/赦し/罰/注目/誘導
危険度:低/中/高/緊急
信仰反応:なし/白面所持/反復DM/供え物/神託引用
拡散感度:低/中/高
推奨対応:返信/投稿化/保留/専門窓口/無応答
推奨時刻
備考
「すげえ」
新が笑った。
「神様、完全に会社じゃん」
「笑えない」
慧が言った。
でも、陸は画面から目を離さなかった。
「これ、かなり使える。信仰反応と拡散感度を分けてるのがいい」
「いい、じゃない」
慧の声が強くなる。
「信仰反応って何だ。白面所持とか、供え物とか、そんなものを記録するな」
「でも、同じ相談でも、神様をどれくらい信じてるかで危険度が変わるだろ」
陸は言った。
「信じてる人ほど、こっちの言葉を強く受け取る。なら、見たほうがいい」
正しい。
正しいと思ってしまった。
慧も一瞬、言葉に詰まった。
正しいことは、人を黙らせる。
その正しさがどこへ向かうかは、別の問題なのに。
杏は、シートの「推奨対応」の欄を見ていた。
「返信、投稿化、保留、専門窓口……」
小さく読み上げる。
「こうやって分けられたら、全部読まなきゃって思わなくて済むかも」
杏の声は、少しだけ楽になっていた。
それを聞いて、私は何も言えなくなった。
杏が楽になるなら。
相談者を危険度で分けられるなら。
投稿化しないものを選べるなら。
外部の熱を減らせるなら。
それは、良いことのように見える。
良いことのように見えるものは、いつも止めにくい。
新が言った。
「じゃあ、オラクルに手伝ってもらえば?」
慧が机を叩きそうになった。
叩かなかったけれど、手が少し動いた。
「篠原」
「いや、権限渡すとかじゃなくて。相談の整理とかさ。信者代表として、外から見た感じを教えてもらうだけ」
「信者代表って言うな」
「でも実際、信者側の空気をいちばん分かってるじゃん」
信者側。
私たちはいつの間にか、こちら側と向こう側に分けていた。
運営側と信者側。
神様を出す側と、受け取る側。
そんなもの、最初はなかったはずなのに。
咲が水を一口飲んだ。
「外から見てる人は、内側に入りたがる」
陸が咲を見る。
「何それ」
「観察結果」
咲は短く言った。
「また観察かよ」
新が笑ったけれど、誰も笑わなかった。



