――翌日の昼休み。
階段の踊り場に集まったとき、陸はもうノートパソコンを開いていた。
「オラクルからDM来てる」
最初にそう言った。
新がすぐに身を乗り出す。
「え、信者代表から?」
「信者代表って言うな」
慧が低く言った。
でも、新は少し笑っていた。
陸が画面をこちらへ向けた。
【神様の声/DM】
送信者:オラクル
時刻:02:18
『突然の連絡をお許しください。
神様の声は、今、強すぎる反応にのまれています。
相談、懺悔、供え物、外部投票、拡散、信仰反応が同じ場所に流れ込んでいるため、御言葉の意味が濁っています。
分類が必要です。
相談者は、救いを求めている人。
罰を求めている人。
赦しを求めている人。
見られることだけを求めている人。
自分ではなく誰かを動かしたい人。
この五つを分けなければ、神様の声は荒れます。』
読み終わって、誰もすぐには話さなかった。
五つ。
救い。
罰。
赦し。
見られること。
誰かを動かしたいこと。
その分類は、怖いくらい分かりやすかった。
杏が小さく言った。
「……分けられたら、少し楽かも」
その声は、本当に疲れていた。
未対応DMは300を超えていた。
供え物は、送るなと書いても、置いておきます、と届く。
外部投票を一時停止しても、返信欄で勝手に投票みたいなことが始まる。
杏はそれを、全部読もうとしていた。
読まないと、誰かを置いていく気がするのだと言っていた。
慧は画面を見つめたまま言った。
「外部の人間を入れるな」
陸はすぐに返した。
「入れてない。DMを読んでるだけ」
「返すな」
「まだ返してない」
「なら、そのままにしろ」
慧の声は固かった。
陸は少し苛立った顔をした。
「でも、言ってることは正しいだろ。実際、混ざってるんだよ。相談と懺悔と供え物と信者っぽい反応が全部。俺らだけじゃ処理できてない」
「だからって、知らないやつに任せるのか」
「任せるなんて言ってない」
「じゃあ何だ」
「参考にする」
参考。
その言葉は便利だった。
そう言えば、責任はまだこちらにあるように見える。
でも、参考にした時点で、その人の言葉はもう中に入ってくる。
咲は、黙ってオラクルのDMを見ていた。
「言葉遣い」
ぽつりと言う。
「何?」
私が聞くと、咲は画面を指した。
「御言葉。濁っています。分類が必要です。……運営に言ってるのに、神様に祈ってるみたい」
新が笑った。
「信者だからじゃん」
咲は新を見なかった。
「信者、というより」
少し間を置く。
「神様の文体を分かりすぎてる」
その言葉で、私の背中が冷えた。
神様の文体。
それは、私が整えてきたものだった。
短く。
断定的に。
余白を残す。
でも、直接命令はしない。
誰かが自分の痛みに合わせて読める形にする。
そんなことは、私たちの中で言葉にしたことはなかった。
でも、オラクルはそれを知っているみたいだった。
陸が続きのDMを開いた。
【オラクル/DM】
『神様の文は、三つでできています。
一、名乗り。
「神様は言う――」
二、断定。
「沈黙は共犯である」
「嘘は、隠した日数だけ重くなる」
三、余白。
具体的な行動を命じず、受け手が自分の罪に合わせて読む。
余白があるから救いになります。
余白がありすぎると、罰になります。』
私は、スマホを握る手に力を入れた。
余白があるから救いになる。
余白がありすぎると、罰になる。
それは、私がずっと見ないようにしていたことだった。
「すご」
新が言った。
「めちゃくちゃ分かってるじゃん」
杏は小さく頷いた。
「これ、私たちより分かってるかもしれない」
陸は、オラクルの言葉に引っかかっていた。
怖いからではない。
便利そうだから。
私は、それが分かった。
分かってしまった。
階段の踊り場に集まったとき、陸はもうノートパソコンを開いていた。
「オラクルからDM来てる」
最初にそう言った。
新がすぐに身を乗り出す。
「え、信者代表から?」
「信者代表って言うな」
慧が低く言った。
でも、新は少し笑っていた。
陸が画面をこちらへ向けた。
【神様の声/DM】
送信者:オラクル
時刻:02:18
『突然の連絡をお許しください。
神様の声は、今、強すぎる反応にのまれています。
相談、懺悔、供え物、外部投票、拡散、信仰反応が同じ場所に流れ込んでいるため、御言葉の意味が濁っています。
分類が必要です。
相談者は、救いを求めている人。
罰を求めている人。
赦しを求めている人。
見られることだけを求めている人。
自分ではなく誰かを動かしたい人。
この五つを分けなければ、神様の声は荒れます。』
読み終わって、誰もすぐには話さなかった。
五つ。
救い。
罰。
赦し。
見られること。
誰かを動かしたいこと。
その分類は、怖いくらい分かりやすかった。
杏が小さく言った。
「……分けられたら、少し楽かも」
その声は、本当に疲れていた。
未対応DMは300を超えていた。
供え物は、送るなと書いても、置いておきます、と届く。
外部投票を一時停止しても、返信欄で勝手に投票みたいなことが始まる。
杏はそれを、全部読もうとしていた。
読まないと、誰かを置いていく気がするのだと言っていた。
慧は画面を見つめたまま言った。
「外部の人間を入れるな」
陸はすぐに返した。
「入れてない。DMを読んでるだけ」
「返すな」
「まだ返してない」
「なら、そのままにしろ」
慧の声は固かった。
陸は少し苛立った顔をした。
「でも、言ってることは正しいだろ。実際、混ざってるんだよ。相談と懺悔と供え物と信者っぽい反応が全部。俺らだけじゃ処理できてない」
「だからって、知らないやつに任せるのか」
「任せるなんて言ってない」
「じゃあ何だ」
「参考にする」
参考。
その言葉は便利だった。
そう言えば、責任はまだこちらにあるように見える。
でも、参考にした時点で、その人の言葉はもう中に入ってくる。
咲は、黙ってオラクルのDMを見ていた。
「言葉遣い」
ぽつりと言う。
「何?」
私が聞くと、咲は画面を指した。
「御言葉。濁っています。分類が必要です。……運営に言ってるのに、神様に祈ってるみたい」
新が笑った。
「信者だからじゃん」
咲は新を見なかった。
「信者、というより」
少し間を置く。
「神様の文体を分かりすぎてる」
その言葉で、私の背中が冷えた。
神様の文体。
それは、私が整えてきたものだった。
短く。
断定的に。
余白を残す。
でも、直接命令はしない。
誰かが自分の痛みに合わせて読める形にする。
そんなことは、私たちの中で言葉にしたことはなかった。
でも、オラクルはそれを知っているみたいだった。
陸が続きのDMを開いた。
【オラクル/DM】
『神様の文は、三つでできています。
一、名乗り。
「神様は言う――」
二、断定。
「沈黙は共犯である」
「嘘は、隠した日数だけ重くなる」
三、余白。
具体的な行動を命じず、受け手が自分の罪に合わせて読む。
余白があるから救いになります。
余白がありすぎると、罰になります。』
私は、スマホを握る手に力を入れた。
余白があるから救いになる。
余白がありすぎると、罰になる。
それは、私がずっと見ないようにしていたことだった。
「すご」
新が言った。
「めちゃくちゃ分かってるじゃん」
杏は小さく頷いた。
「これ、私たちより分かってるかもしれない」
陸は、オラクルの言葉に引っかかっていた。
怖いからではない。
便利そうだから。
私は、それが分かった。
分かってしまった。



