神様は誰?

――最初の外部投票は、翌日の夜に始まった。

私が告知文を整えた。

何度も書き直した。

危険に見えないように。
でも、興味を引くように。
神様っぽく。
でも、私たちが決めていないように。

矛盾した条件を、言葉の中で丸める。

それは、私の得意なことだった。

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――声は、ひとりでは聞ききれない』

これから一部の匿名相談について、返答方針を投票で聞きます。
個人が特定される情報は伏せます。
神様の声を、みんなで聞くために。

#神様の声を聞く

18:00
返信 41 拡散 302 いいね 1,104

返信は、すぐに増えた。

『参加型神様?』

『これ私たちも神託に関われるってこと?』

『怖いけど面白い』

『みんなで聞く、っていい』

『神様、民主主義になった』

『罰する選択肢あるの笑う』

『笑えないけど押したい』

押したい。

その言葉を見て、私はスマホを握る力を強めた。

最初の匿名相談は、軽いものを選んだ。

杏が選んだ。

「これなら、危なくないと思う」

【匿名相談 #101】

『部活の先輩からの連絡が重いです。
悪い人ではないと思います。
でも、通知が来るたびに息が苦しくなります。
距離を置きたいのに、冷たい人だと思われるのが怖いです。』

【外部投票 #101】

神様は、どう答えるべきですか。

□ 赦す
□ 待つ
□ 離れる
□ 晒す
□ 罰する

投票終了まで:60分

最初は穏当だった。

赦す。
待つ。
離れる。

その三つでほとんどを占めていた。

慧は少しだけ安心した顔をした。

「晒すとか罰するは少ない」

新が言った。

「フォロワー、意外とまとも」

慧は新を見た。

「意外と、って言うな」

でも、慧の声も少し緩んでいた。

私も、少し息ができた。

投票結果はこうだった。

【投票結果 #101】

赦す:14%
待つ:21%
離れる:61%
晒す:2%
罰する:2%

陸が頷いた。

「離れるが圧倒的」

杏はほっとしたように笑った。

「よかった」

私は、投票結果を見ながら、神様の文体に直した。

離れる。
でも、命令しすぎない。
先輩を悪者にしすぎない。
相談者を責めない。

みんなの投票を、ひとつの短い言葉にする。

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――息ができない場所に、優しさのふりをして留まってはいけない』

19:17
返信 28 拡散 184 いいね 902

返信欄には、救われた、刺さった、という言葉が並んだ。

『これ欲しかった』

『離れるって悪いことじゃないんだ』

『神様ありがとう』

その夜だけなら、外部投票はうまくいったように見えた。

みんなで聞いた。
みんなで決めた。
私が整えた。

誰かひとりが背負わなくていい。

それは、救いみたいに見えた。