――その日の夜、決定的な返信があった。
決定的、といっても、事件が起きたわけではない。
誰かが死んだわけでも、怪我をしたわけでもない。
ニュースになるようなことは何もない。
ただ、一文が届いただけだった。
【神様の声/返信欄】
『供え物をしたら、神様は私を見てくれますか』
私は、その文章を読んで、しばらく息ができなかった。
供え物をしたら。
神様は。
私を。
見てくれますか。
相談ではなかった。
懺悔でもなかった。
お願いだった。
見返りを求める言葉だった。
見てほしい。
ただ、それだけを買おうとしている。
私はグループチャットにスクリーンショットを貼った。
葉山澪『これ』
既読がつくのが早かった。
篠原新『うわ』
加賀陸『出たな』
早川慧『だから言った』
望月杏『この子、何か抱えてると思う』
早川慧『杏』
望月杏『分かってる。でも、見てほしいって、相当だよ』
早川慧『だからこそ、供え物とは切り離す』
加賀陸『テンプレ返す?』
篠原新『でもさ、供え物なくても見るなら、供え物した人からしたら損じゃない?』
早川慧『損とか得とかにするな』
篠原新『いや、俺が思ってるわけじゃなくて、向こうがそう考えるかもって話』
桐谷咲『もう考えてる』
咲の一文で、チャットが止まった。
もう考えてる。
そうだ。
その人は、もう考えている。
供え物をしたら見てもらえるかもしれない、と。
神様の視線に、値段があるかもしれない、と。
私たちがそう言ったわけではない。
誰かの頭の中で、勝手に。
勝手に、という言葉で逃げられるなら、どれだけ楽だっただろう。
慧が続けた。
早川慧『今夜、全体告知を出す。供え物は受け取らない。供え物の有無で返信は変わらない。金銭・ギフトコードは送らないでください』
篠原新『神様っぽくない』
早川慧『神様っぽさはいらない』
葉山澪『お知らせ。ギフトコードや金銭にあたるものは受け取りません。供え物の有無で、返信や投稿の優先度が変わることはありません。送らないでください』
普通。
硬い。
人間の言葉。
でも、これでいい。
これでいいはずなのに、グループチャットに貼る前から、読まれない気がした。
篠原新『それ、誰も読まないやつ』
分かっていた。
早川慧『読ませるために煽るな』
加賀陸『固定投稿にする?』
早川慧『する』
固定投稿にしたお知らせの下に、すぐ返信がついた。
『神様、優しい』
『供え物いらないの逆に神』
『見返りを求めない神様ってこと?』
『でも供えたい人は供えればいいと思う』
『使わなくても届くよね』
届くよね。
私は、その返信を見て、膝の上で手を握った。
言葉は、届いたあと、こちらのものではなくなる。
それを何度も思い知らされているのに、私はまだ、届かせるために言葉を整えている。
矛盾している。
でも、矛盾していることは、止める理由にならなかった。
私たちは矛盾したまま、続けていた。
決定的、といっても、事件が起きたわけではない。
誰かが死んだわけでも、怪我をしたわけでもない。
ニュースになるようなことは何もない。
ただ、一文が届いただけだった。
【神様の声/返信欄】
『供え物をしたら、神様は私を見てくれますか』
私は、その文章を読んで、しばらく息ができなかった。
供え物をしたら。
神様は。
私を。
見てくれますか。
相談ではなかった。
懺悔でもなかった。
お願いだった。
見返りを求める言葉だった。
見てほしい。
ただ、それだけを買おうとしている。
私はグループチャットにスクリーンショットを貼った。
葉山澪『これ』
既読がつくのが早かった。
篠原新『うわ』
加賀陸『出たな』
早川慧『だから言った』
望月杏『この子、何か抱えてると思う』
早川慧『杏』
望月杏『分かってる。でも、見てほしいって、相当だよ』
早川慧『だからこそ、供え物とは切り離す』
加賀陸『テンプレ返す?』
篠原新『でもさ、供え物なくても見るなら、供え物した人からしたら損じゃない?』
早川慧『損とか得とかにするな』
篠原新『いや、俺が思ってるわけじゃなくて、向こうがそう考えるかもって話』
桐谷咲『もう考えてる』
咲の一文で、チャットが止まった。
もう考えてる。
そうだ。
その人は、もう考えている。
供え物をしたら見てもらえるかもしれない、と。
神様の視線に、値段があるかもしれない、と。
私たちがそう言ったわけではない。
誰かの頭の中で、勝手に。
勝手に、という言葉で逃げられるなら、どれだけ楽だっただろう。
慧が続けた。
早川慧『今夜、全体告知を出す。供え物は受け取らない。供え物の有無で返信は変わらない。金銭・ギフトコードは送らないでください』
篠原新『神様っぽくない』
早川慧『神様っぽさはいらない』
葉山澪『お知らせ。ギフトコードや金銭にあたるものは受け取りません。供え物の有無で、返信や投稿の優先度が変わることはありません。送らないでください』
普通。
硬い。
人間の言葉。
でも、これでいい。
これでいいはずなのに、グループチャットに貼る前から、読まれない気がした。
篠原新『それ、誰も読まないやつ』
分かっていた。
早川慧『読ませるために煽るな』
加賀陸『固定投稿にする?』
早川慧『する』
固定投稿にしたお知らせの下に、すぐ返信がついた。
『神様、優しい』
『供え物いらないの逆に神』
『見返りを求めない神様ってこと?』
『でも供えたい人は供えればいいと思う』
『使わなくても届くよね』
届くよね。
私は、その返信を見て、膝の上で手を握った。
言葉は、届いたあと、こちらのものではなくなる。
それを何度も思い知らされているのに、私はまだ、届かせるために言葉を整えている。
矛盾している。
でも、矛盾していることは、止める理由にならなかった。
私たちは矛盾したまま、続けていた。



