――最初の供え物が届いたのは、その少しあとだった。
それは、大げさなものではなかった。
本当に、軽いものだった。
軽いから、怖かった。
【神様の声/DM】
『神様、昨日の投稿で、本当のことを言えました。
許してもらえなかったけど、少し息ができました。
ありがとうございます。
これ、チョコ買ってください。
供え物です。
コンビニギフトコード:********
300円分』
供え物。
その言葉だけが、画面の中で浮いていた。
チョコ。
300円。
コンビニ。
軽い。
笑えるくらい軽い。
でも、供え物。
いつものファミレスに集まった六人の中で、最初に笑ったのは新だった。
「うわ、供え物きた」
「笑うな」
慧がすぐに言った。
「いや、だって、チョコだよ。神様、チョコもらってる」
「受け取らない」
慧は言った。
強い声だった。
「最初に決めた。金銭は受け取らないって。ギフトコードも金銭と同じ」
陸が画面を拡大した。
「でも、コードってさ、送られてきた時点でこっちにあるよな。使わなければ受け取ってない扱い?」
「使わない。返信する。受け取れませんって」
慧は即答した。
新はスプーンをくるくる回した。
「でも向こうが勝手にくれるならよくない?」
その言葉が、テーブルの上に落ちた。
一瞬、誰も話さなかった。
新は、しまった、という顔をしなかった。
たぶん本気で疑問だった。
「だってさ」
新は続けた。
「こっちから請求してないじゃん。『供え物してください』って言ってないし。ありがとうのチョコでしょ? お礼でしょ?」
「お礼を受け取ったら、次から見返りになる」
慧が言った。
「次?」
「供え物をしたら返してもらえる。見てもらえる。そう思う人が出る」
杏がスマホを見つめたまま、小さく言った。
「この子、たぶん本当に感謝してる」
「だからこそ、受け取っちゃだめだ」
慧の声は、いつもより少し優しかった。
杏を責めないようにしているのが分かった。
「感謝を形にしたい気持ちは分かる。でも、俺たちは受け取っちゃいけない」
陸がキーボードを叩いた。
「じゃあテンプレ作る?」
「テンプレ?」
「供え物対応。受け取れません。お気持ちだけで十分です。ギフトコードは使用しません、みたいな」
「言い方が事務」
新が笑った。
私はスマホを取った。
文章を作るのは、私の役目だった。
『神様は供え物を受け取りません』
打って、消した。
強すぎる。
冷たい。
『お気持ちだけで十分です。ギフトコードは使いません』
普通すぎる。
人間すぎる。
普通でいいはずだった。
むしろ普通でなければいけないはずだった。
でも、普通の言葉を神様のアカウントから送ると、急に嘘っぽくなる。
私は迷った。
神様らしくしすぎれば、供え物を認めることになる。
人間らしくしすぎれば、神様が崩れる。
崩れていいのに。
崩すべきなのに。
私は、それを怖がっていた。
「澪?」
杏が私を見た。
私は画面に、結局こう打った。
【神様の声/DM返信案】
『お気持ちは受け取りました。
ギフトコードは使用しません。
神様は、見返りのために誰かを見ることはありません。』
慧は頷いた。
「それでいい」
新は少し不満そうだった。
「神様、ストイックだな」
咲が言った。
「受け取らなくても、供えたことにはなる」
慧が咲を見る。
「どういう意味だ」
「その人の中では、もう供え物をした」
咲は画面を見たまま言った。
「コードを使うかどうかは、神様側の話。供えた、と思った時点で、その人の中には意味ができてる」
その言葉は、チョコよりずっと重かった。
供え物は、こちらが受け取って初めて供え物になるわけではない。
相手が供えたと思った瞬間に、もう供え物になる。
私はDMの送信ボタンを押した。
受け取りません。
そう返したのに、胸の中のざわめきは消えなかった。
それは、大げさなものではなかった。
本当に、軽いものだった。
軽いから、怖かった。
【神様の声/DM】
『神様、昨日の投稿で、本当のことを言えました。
許してもらえなかったけど、少し息ができました。
ありがとうございます。
これ、チョコ買ってください。
供え物です。
コンビニギフトコード:********
300円分』
供え物。
その言葉だけが、画面の中で浮いていた。
チョコ。
300円。
コンビニ。
軽い。
笑えるくらい軽い。
でも、供え物。
いつものファミレスに集まった六人の中で、最初に笑ったのは新だった。
「うわ、供え物きた」
「笑うな」
慧がすぐに言った。
「いや、だって、チョコだよ。神様、チョコもらってる」
「受け取らない」
慧は言った。
強い声だった。
「最初に決めた。金銭は受け取らないって。ギフトコードも金銭と同じ」
陸が画面を拡大した。
「でも、コードってさ、送られてきた時点でこっちにあるよな。使わなければ受け取ってない扱い?」
「使わない。返信する。受け取れませんって」
慧は即答した。
新はスプーンをくるくる回した。
「でも向こうが勝手にくれるならよくない?」
その言葉が、テーブルの上に落ちた。
一瞬、誰も話さなかった。
新は、しまった、という顔をしなかった。
たぶん本気で疑問だった。
「だってさ」
新は続けた。
「こっちから請求してないじゃん。『供え物してください』って言ってないし。ありがとうのチョコでしょ? お礼でしょ?」
「お礼を受け取ったら、次から見返りになる」
慧が言った。
「次?」
「供え物をしたら返してもらえる。見てもらえる。そう思う人が出る」
杏がスマホを見つめたまま、小さく言った。
「この子、たぶん本当に感謝してる」
「だからこそ、受け取っちゃだめだ」
慧の声は、いつもより少し優しかった。
杏を責めないようにしているのが分かった。
「感謝を形にしたい気持ちは分かる。でも、俺たちは受け取っちゃいけない」
陸がキーボードを叩いた。
「じゃあテンプレ作る?」
「テンプレ?」
「供え物対応。受け取れません。お気持ちだけで十分です。ギフトコードは使用しません、みたいな」
「言い方が事務」
新が笑った。
私はスマホを取った。
文章を作るのは、私の役目だった。
『神様は供え物を受け取りません』
打って、消した。
強すぎる。
冷たい。
『お気持ちだけで十分です。ギフトコードは使いません』
普通すぎる。
人間すぎる。
普通でいいはずだった。
むしろ普通でなければいけないはずだった。
でも、普通の言葉を神様のアカウントから送ると、急に嘘っぽくなる。
私は迷った。
神様らしくしすぎれば、供え物を認めることになる。
人間らしくしすぎれば、神様が崩れる。
崩れていいのに。
崩すべきなのに。
私は、それを怖がっていた。
「澪?」
杏が私を見た。
私は画面に、結局こう打った。
【神様の声/DM返信案】
『お気持ちは受け取りました。
ギフトコードは使用しません。
神様は、見返りのために誰かを見ることはありません。』
慧は頷いた。
「それでいい」
新は少し不満そうだった。
「神様、ストイックだな」
咲が言った。
「受け取らなくても、供えたことにはなる」
慧が咲を見る。
「どういう意味だ」
「その人の中では、もう供え物をした」
咲は画面を見たまま言った。
「コードを使うかどうかは、神様側の話。供えた、と思った時点で、その人の中には意味ができてる」
その言葉は、チョコよりずっと重かった。
供え物は、こちらが受け取って初めて供え物になるわけではない。
相手が供えたと思った瞬間に、もう供え物になる。
私はDMの送信ボタンを押した。
受け取りません。
そう返したのに、胸の中のざわめきは消えなかった。



