神様は誰?

――昼休み、六人は屋上へ向かう階段の踊り場に集まった。

屋上は鍵がかかっている。
だから、私たちは屋上の手前で止まる。
誰かが来たらすぐに教室へ戻れる場所。
でも、教室よりは少しだけ秘密に近い場所。

陸はスマホを片手に、興奮を隠せていなかった。

「三万いった」

新が吹き出した。

「早」

「神様、全国デビュー?」

陸は画面を見せた。

折れ線グラフが、急な坂みたいに上がっていた。

数字の山。

その山の下に、人がいる。

そう思うと気持ち悪かった。

でも陸は、数字を見ていた。
人ではなく、増え方を見ていた。
どこで跳ねたか。
どの投稿が広がったか。
どの言葉に反応がついたか。

陸にとって、それは怖いというより、面白いものなのだと思った。

「『神様は見ている』が強すぎた」

陸が言った。

「DM、何件?」

私が聞くと、杏は少しだけ笑った。

「未対応、78」

新が口笛を吹いた。

「神様、人気者」

「新」

杏の声が少し震えた。

新はすぐに笑うのをやめた。

「ごめん」

杏はスマホを開いて、画面を私たちに向けた。

【神様の声/DM抜粋】

『神様、私も見てください。悪いことはしてないと思います。でも、誰にも見られていないのがつらいです』

『昨日、白い面を印刷してスマホに入れました。少しだけ落ち着きました。これって変ですか』

『神様に見てもらえたら救われるって友達が言ってました。私は救われたいです』

『懺悔したいけど、言葉にしたら本当になる気がして怖いです』

『神様は私のことを知っていますか』

――神様は私のことを知っていますか。

知らない。

私たちは知らない。
名前も顔も、どこの学校かも、どんな部屋でその文章を打ったのかも知らない。
何をして、何を後悔して、何を隠しているのかも知らない。

知らないのに、見ていると言った。

「返さないと」

杏が言った。

「全部には返せない」

慧が言う。

「分かってる」

杏は頷いた。

「でも、返さないと、この子たち、神様に見捨てられたって思うかもしれない」

その言葉で、階段の空気が重くなった。

――見捨てられた。

私たちはいつから、見捨てる側になったんだろう。

「増えると」

咲が言った。

ずっと黙っていた咲が、手すりの向こうを見ていた。

「言葉の意味が変わる」

新が咲を見る。

「どういう意味?」

咲は淡々と言った。

「私たちは最初、冗談半分だった。でも、読む人が増えると、冗談の薄さが消える。残るのは、見ている事実だけ」

私は咲の横顔を見た。

咲は、怖がっているようにも見えた。
面白がっているようにも見えた。
そのどちらでもないようにも見えた。

「じゃあ消す?」

慧が言った。

「投稿」

新がすぐに反応した。

「今消したら逆にやばくない? 消したって拡散されてるし、スクショもあるし」

陸も頷いた。

「消しても残る。むしろ消した理由を詮索される」

「じゃあ、違うって言う」

慧の声が少し強くなった。

「見抜いてない。相談を受けて返してるだけ。神様じゃないって」

新が笑いそうになって、でも笑えずに言った。

「それ、今さら誰が信じる?」