神様は誰?

――翌朝、学校へ向かう電車の中で、神様の声のフォロワーは一万を超えた。

学校に着くと、下駄箱の前がいつもよりざわついていた。

何かあったのかと思った。

でも、何かがあったわけではなかった。

誰かのスマホケースに、小さな白い面が挟まっていただけだった。

透明なケースの内側。
プリンターで印刷したのか、少し粗い画像。
白い顔。
細い目。
閉じた口。

私たちが選んだアイコン。

それが、誰かのスマホに入っていた。

「それ、神様?」

近くの女子が聞いた。

「そう。昨日のやつ。神様は見ている、って」

「怖くない?」

「怖いけど、なんかお守りっぽくない?」

「お守り?」

「悪口とか言えなくなりそうじゃん。見てるから」

その子たちは笑った。

普通の笑いだった。
朝の下駄箱で、校則違反の靴下を見つけた時みたいな。
テスト範囲を間違えた時みたいな。
何でもない笑い。

私は、その笑いに入れなかった。

お守り。

白い面は、お守りになっていた。

「澪」

背後から新の声がした。

振り向くと、新は下駄箱に片足を引っかけながら、にやっと笑っていた。

「見た?」

「……見た」

「すごくない?」

「すごい、のかな」

「すごいでしょ。アイコン持ってる人いるんだよ。もう神様、グッズ展開じゃん」

「笑えない」

私が言うと、新は少しだけ口を尖らせた。

「そんな顔するなって。別に僕らが配ったわけじゃないし」

それは正しかった。

私たちは配っていない。
白い面を印刷しろなんて言っていない。
スマホケースに入れろなんて言っていない。
お守りにしろなんて言っていない。

私たちが投稿した。
でも、そのあとに誰かが何をするかまでは、私たちのせいじゃない。

そう言えるなら、どれだけ楽だっただろう。

廊下を歩いていると、別の声が聞こえた。

「神様に見てもらえたら救われるらしいよ」

冗談っぽい声だった。

「何それ、宗教?」

「違う違う、SNSのやつ。懺悔したら見てくれるって」

「え、私も懺悔しよ。昨日課題写した」

「軽すぎ」

笑い声。

私は歩幅を変えなかった。

変えたら、聞いていたことがばれる気がした。