――その日の放課後、ファミレスの六人席は、いつもより狭かった。
実際には、何も増えていない。
ポテトの皿。
ドリンクバーのグラス。
陸のノートパソコン。
慧のメモ帳。
杏のスマホ。
新のパフェ。
咲の水。
同じものがあるだけなのに、テーブルの上には、見えないDMが19件分乗っている気がした。
「DMで受けるのは限界」
陸が言った。
画面には、何かのフォーム作成サービスが開かれていた。
「質問項目を作って、そこに書いてもらう。こっちで整理しやすくなる。危険度も分けられる。個人情報を書かないように注意書きも出せる」
慧はメモ帳を開いた。
「やるなら、まず名前だ」
新が言った。
「名前?」
「フォームの名前」
「相談フォームでいいだろ」
慧が即答した。
新はストローで氷をかき回した。
「つまんない」
「つまらなくていい」
「いや、神様の声に相談フォームは弱いって。市役所かよ」
「市役所に失礼だろ」
陸が小さく笑った。
新は画面を覗き込んで、わざと低い声を出した。
「懺悔室」
その単語が、テーブルの上に落ちた。
懺悔室。
教会にあるものを想像した。
本物を見たことはない。ドラマや映画で見たことがあるだけだ。
暗い小さな部屋。
顔の見えない誰か。
自分の罪を言葉にして、許しをもらう場所。
「重い」
杏が言った。
でも、嫌がっている声ではなかった。
「重すぎる」
慧が言う。
「相談フォームでいい」
「相談って言うから、答えを求めてくるんじゃん」
新は画面から目を離さなかった。
「懺悔なら、まず吐き出す場所って感じする」
「吐き出したものを、俺たちが見るんだぞ」
慧の声が低くなる。
「分かってるって」
新は軽く返した。
軽い返し方をしたけれど、目は笑っていなかった。
「だから、懺悔室なんじゃん。入れてもらって、必要なやつだけ神様が返す」
「神様が返すって言うな」
慧がペンを置いた。
「俺たちが返すんだ」
その一言で、少しだけ空気が止まった。
俺たちが返す。
当たり前なのに、言われると落ち着かなかった。
神様が返すと言ったほうが、楽だった。
責任の置き場所が、遠くにある気がしたから。
咲が水のグラスを持ち上げた。
氷が、小さく鳴った。
「懺悔室でいいと思う」
「咲まで?」
慧が顔をしかめる。
咲は表情を変えない。
杏がスマホの画面を見つめたまま言った。
「でも……誰にも言えないことを、ここなら書ける人がいるなら」
慧が杏を見た。
「杏」
「分かってる」
杏は小さく首を振った。
「私たちが救えるなんて思ってない。思ってないけど、でも、書いてくれたら、その人は一回、一人じゃなくなるじゃん」
一人じゃなくなる。
その言葉は、強かった。
新はすぐに頷いた。
「じゃ、決まり。懺悔室」
実際には、何も増えていない。
ポテトの皿。
ドリンクバーのグラス。
陸のノートパソコン。
慧のメモ帳。
杏のスマホ。
新のパフェ。
咲の水。
同じものがあるだけなのに、テーブルの上には、見えないDMが19件分乗っている気がした。
「DMで受けるのは限界」
陸が言った。
画面には、何かのフォーム作成サービスが開かれていた。
「質問項目を作って、そこに書いてもらう。こっちで整理しやすくなる。危険度も分けられる。個人情報を書かないように注意書きも出せる」
慧はメモ帳を開いた。
「やるなら、まず名前だ」
新が言った。
「名前?」
「フォームの名前」
「相談フォームでいいだろ」
慧が即答した。
新はストローで氷をかき回した。
「つまんない」
「つまらなくていい」
「いや、神様の声に相談フォームは弱いって。市役所かよ」
「市役所に失礼だろ」
陸が小さく笑った。
新は画面を覗き込んで、わざと低い声を出した。
「懺悔室」
その単語が、テーブルの上に落ちた。
懺悔室。
教会にあるものを想像した。
本物を見たことはない。ドラマや映画で見たことがあるだけだ。
暗い小さな部屋。
顔の見えない誰か。
自分の罪を言葉にして、許しをもらう場所。
「重い」
杏が言った。
でも、嫌がっている声ではなかった。
「重すぎる」
慧が言う。
「相談フォームでいい」
「相談って言うから、答えを求めてくるんじゃん」
新は画面から目を離さなかった。
「懺悔なら、まず吐き出す場所って感じする」
「吐き出したものを、俺たちが見るんだぞ」
慧の声が低くなる。
「分かってるって」
新は軽く返した。
軽い返し方をしたけれど、目は笑っていなかった。
「だから、懺悔室なんじゃん。入れてもらって、必要なやつだけ神様が返す」
「神様が返すって言うな」
慧がペンを置いた。
「俺たちが返すんだ」
その一言で、少しだけ空気が止まった。
俺たちが返す。
当たり前なのに、言われると落ち着かなかった。
神様が返すと言ったほうが、楽だった。
責任の置き場所が、遠くにある気がしたから。
咲が水のグラスを持ち上げた。
氷が、小さく鳴った。
「懺悔室でいいと思う」
「咲まで?」
慧が顔をしかめる。
咲は表情を変えない。
杏がスマホの画面を見つめたまま言った。
「でも……誰にも言えないことを、ここなら書ける人がいるなら」
慧が杏を見た。
「杏」
「分かってる」
杏は小さく首を振った。
「私たちが救えるなんて思ってない。思ってないけど、でも、書いてくれたら、その人は一回、一人じゃなくなるじゃん」
一人じゃなくなる。
その言葉は、強かった。
新はすぐに頷いた。
「じゃ、決まり。懺悔室」



