神様は誰?

――1か月後、神様の声のDMに、新しいメッセージがあった。

『友達に嘘をついています。

バレたら全部終わります。

本当は、私が言いました。
でも、言ってないって言いました。
そのせいで、別の子が疑われています。

最初は小さいことでした。
でも、だんだん大きくなって、もう戻れません。

本当のことを言ったら、友達をなくすと思います。
でも、黙っていると、毎日その子の顔が見られません。

私はどうしたらいいですか。』

私は画面を見たまま、しばらく動けなかった。

小さいこと。
別の子が疑われている。
友達をなくす。
その言葉だけで、いろいろな場面が想像できてしまう。

悪口。
噂。
スクリーンショット。
嘘。
グループ内で、よくあること。

私は六人のグループチャットに相談を貼った。

葉山澪『#017、見て』

すぐに既読がついた。

篠原新『うわ』

加賀陸『具体的だけど個人名なし』

早川慧『これは慎重に』

望月杏『この子、たぶん限界だよ』

桐谷咲『別の子が疑われている』

咲の言葉だけが、妙に冷静だった。

私は、その一文に目が止まった。

相談者ではなく、疑われている別の子。
画面の中にいない人。
でも、本当に傷ついているかもしれない人。

私たちは、その人の相談を受けていない。
なのに、私たちの返答は、その人の人生にも触れる。

慧がすぐに共有メモを更新した。

【共有メモ/相談ID #017】

種別:嘘/友人関係/責任転嫁
危険度:中
懸念:相談者を追い詰める可能性。第三者が不利益を受けている可能性。
返答方針案:
A 投稿しない。DMで「信頼できる大人に相談」と返す。
B 投稿で一般論として、嘘を抱え続ける危険を伝える。
C 投稿で謝罪を促す。ただし直接命令は避ける。
D 保留。

慧はAに投票した。

早川慧:A
望月杏:C
篠原新:C
加賀陸:B
桐谷咲:C

私は画面を見た。

五人のうち、Cが三つ。

私がCに入れれば、四人以上。

神様はしゃべる。

私がAに入れれば、まだ決まらない。

たったそれだけのことなのに、指先が重かった。

篠原新『これさ、黙ってるほうがヤバくない?』

早川慧『そうやって単純化するな』

篠原新『でも、別の子が疑われてるんだろ? だったら本当のこと言うべきじゃん』

早川慧『言うべき、を俺たちが言うのが危ないって話をしてる』

望月杏『でも、この子、たぶん誰かに止めてほしいんじゃなくて、背中を押してほしいんだと思う』

早川慧『それは推測だ』

望月杏『分かってる。でも、相談ってそういうところあるじゃん。自分で分かってることを、誰かに言ってほしいときがある』

杏の言葉は、やさしかった。
やさしすぎて、逃げ道を塞いでいた。

加賀陸『投稿は一般論にすればいい。嘘はよくないくらいなら、直接命令じゃない』

篠原新『神様が嘘はよくないって、道徳のポスターかよ』

私は相談内容をもう一度見た。

『バレたら全部終わります』

『毎日その子の顔が見られません』

この子は、救われたいのか。
許されたいのか。
罰を受けたいのか。
それとも、その全部なのか。

私には分からなかった。
分からないのに、私たちは答えようとしている。

篠原新『澪。文、作れる?』

私はスマホを握り直した。

葉山澪『まだ、投票してない』

篠原新『澪次第じゃん』

澪次第。

その言葉が、怖かった。

だから私は、すぐに心の中で打ち消した。

違う。

五人がもう投票している。
私は最後の一票を入れるだけ。
みんなで決めた。
私ひとりじゃない。

私は指先で、短い文を打った。

葉山澪『神様は言う――嘘は、隠した日数だけ重くなる』

一度打って、見つめた。

命令ではない。
個人名もない。
相談者を直接追い詰めてはいない。

でも、逃げ道が少ない言葉だった。

葉山澪『これでどう』

私はグループに貼った。

少し間があった。

篠原新『うわ、神様っぽい』

加賀陸『いいと思う』

望月杏『刺さると思う』

早川慧『強い』

桐谷咲『重い』

私は、慧の「強い」と咲の「重い」を見た。

どちらも反対ではなかった。

反対ではない言葉は、賛成みたいに扱われる。
それを私たちは、もう覚えてしまっていた。

私は投稿画面を開いた。

私が打った言葉なのに、その横に白い面があるだけで、私の言葉ではなくなる。

葉山澪が言えば、ただの意見。
神様の声が言えば、神託。

私は投稿ボタンを押した。

【神様の声 @kamisama_no_koe_000】

『神様は言う――嘘は、隠した日数だけ重くなる』

23:16
返信 0 拡散 0 いいね 0

投稿した直後は、何も起こらなかった。

いつものように、数分後にいいねがついた。

十分後に、返信が一つ。

『これきつい』

そのあと、拡散が三つ。

『今の私すぎる』

『神様、今日も容赦ない』

『嘘ついてるやつ見てる?』

最後の返信を見たとき、少しだけ嫌な感じがした。

――嘘ついてるやつ見てる?

それは、誰に向けられた言葉なのか分からない。

分からないから、誰にでも向く。

私はスマホを伏せた。
でも、伏せたスマホが気になって、すぐにまた見てしまった。

眠ったのは、たぶん二時を過ぎてからだった。