ノベライズ版「祝祭村からの脱出」にまつわる記録

うだった。その音声は……はっきり言って、意味の分からないものだった。ただ確かなのは、そこに残っていたのは夜子の声だった、ということだ。
 私は民宿の中でノートパソコンを開いたまま、ただ呆然と固まっていた。
 夜子は――的井夜子は、どこへ消えてしまったのだろう。
 没入とは、何なのだろう。

 ふと、祝夜の招待の一人だという「兎見月」が過去にSNSに書き込んでいた内容を思い出した。


兎見月 @im_junkie45
体験した人とできなかった人で一生温度差出ることになると思う

 ――ああ。
 ――まさに、そうなのかもしれない。

 私は祝祭を体験することがなかった。
 だから、夜子がどうしてあんなに「没入」にこだわっていたのか、祝夜という存在が何なのか、祝祭とはなんだったのか、そして夜子がどこへ消えたのかがわからないのかもしれない。
 ノートパソコンをひざに載せたまま、どれくらいの間そうしていたのかわからない。
 ぴろん、という通知音がスマホから響いた。

 ……なんだろう。祝祭村の件が炎上しだしてから、SNSの通知やメッセージアプリの連絡が増えすぎて、通知はほとんど切ってしまっている。なにか通知を切り忘れているアプリがあったのかもしれない。
 そう思いながらスマートフォンを取り出すと、そこには「祝夜」からLINEメッセージが届いているという通知が表示されていた。

「……え」

 慌ててLINEのアプリを立ち上げる。
 そのトークルームには、一枚の画像が送られてきていた。



 そのトークルームは「祝夜」となっていたが、過去の会話を見直せばそれは夜子とのトークルームだった。この画像の上までは、夜子との懐かしい――今となっては、平穏な日常だった日々の会話が並んでいる。
 私は慌てて「夜子、無事だったんだね」と書き込もうとしたが、送信ボタンを押す直前、
画面にメッセージが一行現れた。

――祝夜が退出しました

 私は、なんだかわからないものに巻き込まれてしまったような、そんな胃の奥がぐるぐるするような感覚がしていた。それは不快なわけではなく、どちらかというと、そう――ワクワク。
 私は、ワクワクしていた。
 夜子が、祝夜が夢中になっていることに、次は私も体験しなければならない。その時にはきっと、夜子と再会できる。
 私はそう確信しました。


Fin