火は、思っていたよりも静かだった。
ぱちぱちという音が、夙彩村の夜に吸いこまれていく。
「神送り」の儀式が行われている村はずれで、粗末な小屋は炎に包まれ、その熱が遠く離れたところで見守る私たちまで届いてきた。
ようやく、長かった祝祭が終わる――
安堵のような空気が私たちのなかに漂っていた。これで無事に祝祭を終えることができ、この夙彩村――いや、祝祭村から脱出することが出来るだろう。
「待ってください! 奈央さんがいません。奈央さんはどこにいますか!?」
巫女装束に身を包んだ澪が、突然血相を変えて騒ぎ出した。
その場にいるのは私たち以外には、村長の大路徳三、その娘で巫女の大路澪、そして神主の蓮田玲だけだった。ここまで私たちのことを案内してくれていた、奈央の姿はなかった。
「先ほどまでは確かにこの場にいたんですが……」
「この小屋までは奈央さんが案内してくれましたし」
口々に、先ほどまで確かに奈央はここにいたと言い出す。それなら、いったい奈央はいつの間に、どこへ消えてしまったのだろう。
いや、そんな白々しい疑問を言うまでもない。
加納奈央が祝祭村の最後の生贄になったのだ。
「……奈央は、役目を果たした」
低く、落ち着いた声で徳三が言った。炎の光に照らされたその顔は、皺の一本一本までくっきりと浮かび上がっているのに、表情だけが読み取れなかった。
「お父様! そんな……。まさか、お父様が……」
澪の言葉に、徳三は首を横に振る。
「いや、ワシではない。しかし、誰かがこの祝祭の最後の贄をささげたのだろう。村の決まりの通りに……」
燃え盛る小屋を見つめる徳三に、澪はわっと顔をおさえて泣き崩れてしまった。
どうしていいか分からないでいると、すっと神主の蓮田玲が前へ出て、すっかり耳なじんでしまった例の唄を語り出した。その声は、どこまでも澄んでいて、夜の空の中まで吸い込まれていきそうだった。
祝祭村の生贄は
ひとつ大滝竜様に
ふたつお山の大猿に
みっつ土蜘蛛よくお食べ
よっつ神樹へ括り付け
いつつ焔に乗って飛んでいけ
その時、火の手が強さを増していく小屋の方から、小さな白い影がこちらへ向かってやってきた。生贄の代わりに捧げたはずの白うさぎだ。
白いうさぎは私たちのことなど見向きもせずに、山の中へとぴょんぴょんと走り抜けていった。
「祝祭は、無事に終わったんじゃ」
これまでの四人の生贄に加え、奈央までもが生贄になってしまった。
「君たちも、この祝祭を共に目撃してくれてありがとう。夜が明けたらこの村の出口へ案内してあげよう」
徳三の言葉に返事をするものは誰もいなかった。
燃え盛る小屋を見つめながら、これまでの長かった道のりへ思いを馳せていた。迷い込んでしまった山の中で、村を見つけたときの安心した気持ち。優しく歓迎してくれた村の人たち。そして、祝祭。
ただの田舎の村祭りのはずだった。生贄を模した人形を捧げる、伝統の祝祭。そのはずだったのに――
一歩前に出て、毅然とした態度で夜子はこう宣言した。
「いえ、その前にやらなければいけないことがあります。
この祝祭を実行していた――いや、五人もの人たちを殺害した犯人はいったい誰なのか。それを突き止めるまでは、この村を出るわけにはいきません」
最終章へ続く
ぱちぱちという音が、夙彩村の夜に吸いこまれていく。
「神送り」の儀式が行われている村はずれで、粗末な小屋は炎に包まれ、その熱が遠く離れたところで見守る私たちまで届いてきた。
ようやく、長かった祝祭が終わる――
安堵のような空気が私たちのなかに漂っていた。これで無事に祝祭を終えることができ、この夙彩村――いや、祝祭村から脱出することが出来るだろう。
「待ってください! 奈央さんがいません。奈央さんはどこにいますか!?」
巫女装束に身を包んだ澪が、突然血相を変えて騒ぎ出した。
その場にいるのは私たち以外には、村長の大路徳三、その娘で巫女の大路澪、そして神主の蓮田玲だけだった。ここまで私たちのことを案内してくれていた、奈央の姿はなかった。
「先ほどまでは確かにこの場にいたんですが……」
「この小屋までは奈央さんが案内してくれましたし」
口々に、先ほどまで確かに奈央はここにいたと言い出す。それなら、いったい奈央はいつの間に、どこへ消えてしまったのだろう。
いや、そんな白々しい疑問を言うまでもない。
加納奈央が祝祭村の最後の生贄になったのだ。
「……奈央は、役目を果たした」
低く、落ち着いた声で徳三が言った。炎の光に照らされたその顔は、皺の一本一本までくっきりと浮かび上がっているのに、表情だけが読み取れなかった。
「お父様! そんな……。まさか、お父様が……」
澪の言葉に、徳三は首を横に振る。
「いや、ワシではない。しかし、誰かがこの祝祭の最後の贄をささげたのだろう。村の決まりの通りに……」
燃え盛る小屋を見つめる徳三に、澪はわっと顔をおさえて泣き崩れてしまった。
どうしていいか分からないでいると、すっと神主の蓮田玲が前へ出て、すっかり耳なじんでしまった例の唄を語り出した。その声は、どこまでも澄んでいて、夜の空の中まで吸い込まれていきそうだった。
祝祭村の生贄は
ひとつ大滝竜様に
ふたつお山の大猿に
みっつ土蜘蛛よくお食べ
よっつ神樹へ括り付け
いつつ焔に乗って飛んでいけ
その時、火の手が強さを増していく小屋の方から、小さな白い影がこちらへ向かってやってきた。生贄の代わりに捧げたはずの白うさぎだ。
白いうさぎは私たちのことなど見向きもせずに、山の中へとぴょんぴょんと走り抜けていった。
「祝祭は、無事に終わったんじゃ」
これまでの四人の生贄に加え、奈央までもが生贄になってしまった。
「君たちも、この祝祭を共に目撃してくれてありがとう。夜が明けたらこの村の出口へ案内してあげよう」
徳三の言葉に返事をするものは誰もいなかった。
燃え盛る小屋を見つめながら、これまでの長かった道のりへ思いを馳せていた。迷い込んでしまった山の中で、村を見つけたときの安心した気持ち。優しく歓迎してくれた村の人たち。そして、祝祭。
ただの田舎の村祭りのはずだった。生贄を模した人形を捧げる、伝統の祝祭。そのはずだったのに――
一歩前に出て、毅然とした態度で夜子はこう宣言した。
「いえ、その前にやらなければいけないことがあります。
この祝祭を実行していた――いや、五人もの人たちを殺害した犯人はいったい誰なのか。それを突き止めるまでは、この村を出るわけにはいきません」
最終章へ続く



