ひと雫の魔法

 俺は持っていた鞄も包み紙も放り出して、その手を壊れものを扱うように取ってどけた。
 そして、震える親指で彼女の涙を拭った。

 彼女の涙は温かくて、触れてしまった頬は熱くて。俺は心臓が壊れるんじゃないかと思った。

 彼女は惚けたように俺の顔を見上げている。

「大丈夫、だから。別に、狡いなんて思わないから」

 彼女の瞳から、また感情が雫となって煌めいた。

 本当にやばい。
 めちゃくちゃ可愛い。
 俺、泣き顔フェチなのか? 

 そうじゃない。彼女の気持ちが、なんか苦しいほど伝わってきて、愛おしい。俺のこと、本当好きなんだな。なんか嬉しすぎる。

 俺は。

「え?」

 彼女の困惑した声が俺の首あたりからした。

 理性が飛んでいた。

「俺は君以外に好かれても意味ないから。……あったけー。待ってる間、寒くて、不安で。会えなかったらどうしようって。会えてよかった……!」

 俺は彼女のうなじに顔を埋めるようにして、気持ちを吐露した。彼女は黙って、そして、身体を固くしていた。

 まずい。やばい。俺、何してんだ。

「ご、ごめん!!」

 彼女の緊張に気づいて、俺はがばっと身体を離した。なのに、彼女の頭の感触と体温が薄れていくのを寂しく思う俺は、なんて奴だ。

「いや、あの、その。ごめん。俺。こんなの痴漢した奴と変わらないよな!」

 何を言ってもセクハラの言いわけにしかならない。色々言いたいことあったのに。

「その、俺、ちゃんと君が好きだから!」

 俺の口からはその一言しか出なかった。

 彼女は一瞬、ぽかんとして。そして。
 こんな笑顔するんだと思うほど、顔をくしゃくしゃにして笑った。その目からまた涙が溢れた。

 彼女の嬉し涙は何よりも尊かった。