ひと雫の魔法


 あくびを噛み殺しながら俺はひたすら彼女だけを待つ。さすがに五時台は人がいない。早く来すぎただろうか。

 段々と白んでくる空を見上げる。

 朝はまだまだ寒い。けれど空気に花の香りなのか甘い香りが混じっている。春が近いのだ。

 俺にも遅めだけれど春が来ますように。彼女と会えますように。

 立っていると疲れてきたのでベンチに座った。冷たいベンチは俺の体温を奪っていく。俺は、マフラーに顎を埋めて、足のつま先を前後ろに動かし、寒さを紛らわせて待った。

 時間と共にぽつぽつと人が来だした。

 その中に彼女の姿を見つけた。

 以前の電車より一時間ちょっと前の時間だった。

 これじゃ会えないわけだ。

 彼女は俺に気がつかない。時間が違うだけで、彼女は以前と同じ場所まで歩いていくと、そこで電車を待ち始めた。
 寒いのだろう。指に息を吹きかけ、さすっている。

 俺は彼女が来たことに心底安堵した。