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家に帰って鞄の奥で揉みくちゃになってしまった紙袋を取り出す。
チョコレートだろうことがわかった今、開けるのに勇気が必要だった。
俺は彼女からのチョコをどうするんだ? 食べるのか? 紗代にやるのか?
彼女の顔がチラつく。
その顔が悲しみに崩れるのを想像したとき胸がズキリと痛んだ。
彼女のことを考えると、今まで経験したことのない気持ちになる。妙な感じだ。
俺は試合の前のように一度息を鋭く吐くと、包み紙を開けた。
紺色のマフラーと、手作りであろうチョコレートトリュフ、そして一通の封筒が入っていた。
自分がマフラーをせず、電車を待っている間、首をすくめていたかもしれないと気付かされた。チョコレートトリュフは既製品に比べれば歪《いびつ》ではあったが、彼女が懸命に作っているのを想像すると笑みが浮かんだ。
「おにぃ〜。何笑ってんの、気持ち悪っ! って、それ、トリュフじゃん! おにぃ、もらってきたの? 初めてじゃない? 彼女? 見せて!」
部屋のドアをいきなり開けて入ってきた紗代に、手にしていた彼女からのプレゼントを慌てて俺は背中の後ろに隠した。
「アホ紗代。ノックぐらいしろ。何の用だよ?」
「チョコを渡しにきた可愛い妹にそんな態度はないんじゃない?」
「どうせ失敗作だろ」
「失敗作でも愛はこもってます〜!」
紗代の、「す〜」の伸ばし方が気に入らない。わざとらしい。
「お前の愛なんていらん」
「おにぃ、酷くない? いくら彼女ができたからって、紗代のことはどうでもいいの?」
紗代が瞳を潤ませる。
俺はまたかと、
「はいはい、紗代は紗代で妹として構ってるつもりだ。嘘泣きはやめろ」
とあしらった。紗代はペロッと舌を出して、
「じゃあ、可愛い妹にチョコトリュフ一つ恵んで?」
と言ってきた。
「これは駄目だ」
瞬時に答えた自分に驚いた。
「ふうん」
紗代がニタっと笑った。
「どんな人?」
「嘘泣きしない人」
俺の答えに紗代はまた笑った。
「へぇ。おにぃ、騙されてない? 人前で泣くのは嘘泣きだよ?」
紗代は意地悪く言った。
俺はもう一度彼女の涙を思い出す。
「紗代、お前、嘘泣きばっかりしてると、本当に泣いたときに信じてもらえないぞ。お前だって本当に悲しいとき、怖いときがあるだろ?」
「そりゃあるよ。でも、そんな涙は男子に見せないよ」
紗代の言葉に俺は驚いた。
「何で?」
「泣くのは構ってほしいからで、本当の涙はよっぽどのことじゃないと人前で流せない。恥ずかしいし、見せたくない」
彼女は俺に構ってほしくて泣いた?
俺は瞬時にそれを否定した。あれは恐怖と安堵からくる涙だった。
「よく泣くお前もある意味難儀だな」
「ふん。おにぃなんて騙されて振られてしまえ」
いーっと顔をしかめて言う紗代に、この顔は小さいときと変わらないなと思った。
「彼女じゃないし」
「でも、おにぃ、その人好きなんじゃん。だって、おにぃ、今までこんな話しなかったもん」
べぇーと舌を出して、紗代は手にしていた失敗チョコを俺のほうに放ると、ドアを閉めて出ていった。



