無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

その時、藩主さまの声がした。

「小夜」

私は御前へ向き直った。

「此度、妖毒を見分け、倒れた者を救い、朔夜を支えた功、見事であった。だが、お前の力はまだ途上であろう」

その言葉に、私は深く頷いた。

「はい。私には、まだ分からないことばかりです」

「それを隠さぬのがよい」

簾の奥で、藩主さまがわずかに身じろぎした気配があった。

「小夜を、藩の筆頭薬師として遇する。老薬師たちを補佐につけ、薬帳と薬蔵を改めさせよ。妖毒、禍、香、禁薬に関わるものは、小夜の目を通すこととする」

大きなどよめきが起こった。

私は一瞬、息を忘れた。

「加えて、朔夜の側薬師もせよ。禍を斬る武人には、禍を見る薬師が必要である」

朔夜さまが、私を見た。

私は、朔夜さまを見返した。

彼の首筋には、まだ黒い禍が残っている。私の手にも、薬湯と灰の匂いが染みついている。二人とも無傷ではない。きれいな童話の姫と武将には、きっと見えない。

でも、だからこそ、隣に立てる気がした。

「お受けいたします」

私は深く頭を下げた。

「未熟な身ですが、学び、診て、手を尽くします」

藩主さまは短く頷いた。

「よい」

その日の御前は、そうして閉じられた。