無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

父はしばらく言葉を探していた。朝霧堂の当主としての背も、父としての威厳も、今は薄い紙のように見えた。

「小夜」

その声は、昔よりずっと小さかった。

「私は……お前の目を、信じなかった。お前を、守らなかった」

私は何も言えなかった。

謝ってほしいと、ずっと思っていた気がする。

でも、いざその言葉が来ても、胸の穴はすぐには埋まらない。幼い私が薬草を一つ覚えるたび、父に褒めてほしかったこと。千景の後ろで黙っていたこと。裏口から追い出された夜の冷たさ。それらは、謝罪一つで消えるものではなかった。

継母も頭を下げた。

「小夜、悪かったよ。あんたを……ずっと、役立たずだなんて。戻っておいで。朝霧堂には、あんたの力が必要だ。今戻れば、店もまだ——」

そこにあったのは、後悔だけではない。

恐れと、打算と、失ったものを取り戻そうとする焦りも混じっていた。

昔の私なら、それでも戻ったかもしれない。

必要だと言われたくて。
家の中に、居場所がほしくて。

けれど、今の私は知っている。

居場所は、誰かに踏みにじられながら許しを乞う場所ではない。
自分の足で立ち、自分の手で選ぶものだ。

私は、静かに頭を下げ返した。

「お父さま。お義母さま」

呼び方だけは、昔のままだった。

でも、そこに戻るための声ではなかった。

「私はもう、朝霧堂へは戻りません」

継母が顔を上げた。
父の目が揺れる。

私は続けた。

「恨んでいないとは言えません。悲しくなかったとも言えません。でも、私はこれから、自分の目と手で人を救う道を選びます。朝霧堂のためではなく、誰かに認められるためでもなく」

言いながら、胸の奥が痛んだ。
それでも、その痛みは私を止めなかった。

「私は、私の道を歩きます」