無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

兵が千景のそばへ来た。彼女の手首には布が巻かれ、黒い印を隠すように結ばれた。千景は抵抗しなかった。ただ、連れていかれる直前、私を見た。

「お姉さま」

その声は、昔のように甘くなかった。

「勝ったつもり?」

私は首を横に振った。

「勝ちたいと思っていたわけではありません」

本当は、そう言い切るには少しだけ痛かった。

私はずっと、千景の影で生きてきた。悔しかった。羨ましかった。父に見てほしかった。誠一郎さまに信じてほしかった。千景が持っているものを、一つでもいいから私も持ちたいと思った夜が、確かにあった。

でも、今日ここで得たものは、千景に勝った証ではない。

私が、過去に戻らないための道だ。

「私は、私の行く道を選びます」

千景の目が揺れた。

それが怒りなのか、後悔なのか、私には分からなかった。

千景は兵に連れられ、白幕の向こうへ消えていった。

父と継母が、私の前に膝をついたのは、その後だった。