無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

湯殿から部屋に戻ると、用意された小袖は私には少し大きかった。薄藍の布は柔らかく、袖を通すと、肌に雲が触れたようだった。髪を拭く布も清潔で、かすかに日なたの匂いがする。

食事は膳に載せられて運ばれた。

白い粥。焼いた魚。青菜の和え物。小さな椀には、体を温めるための生姜湯。湯気の向こうで、生姜の辛い香と出汁の匂いが混ざった。

私は膳の前に座ったまま、箸を取れなかった。

「冷めます」

そばに控えていた女中が言う。

「あの……本当に、私がいただいてよいのですか」

女中はしばし私を見た。

その視線には、先ほどより少しだけ違う色があった。呆れか、戸惑いか。それとも、私があまりに本気で尋ねたからだろうか。

「毒は入っておりません」

「そ、そういう意味では」

「食べられぬなら、お下げします」

「いただきます」

私は慌てて箸を取った。

粥を口に含むと、温かさが舌の上でほどけた。米の甘み。塩の気配。喉を通るたび、体の奥へ火が灯っていくようだった。

食べながら、涙が落ちそうになった。粥に涙を入れるわけにはいかないと、私は何度も瞬きをした。

こんなことで泣くなんて、情けない。

けれど、温かい食事は、人をひどく脆くするのだと初めて知った。