無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

その通りだと思った。

昔なら、誠一郎さまにそう言われれば、私は自分を責めたかもしれない。私がもっと役に立てば。私が千景のようになれば。私が父に認められれば。

でも今は違う。

私は、朔夜さまの隣で、息をした。

「誠一郎さま」

自分でも驚くほど、声は静かだった。

「私は、あなたと婚約し直すつもりはありません」

誠一郎さまの目が見開かれる。

私は続けた。

「あなたに選ばれることが、私の価値ではありません。朝霧堂に戻ることが、私の幸せでもありません」

父が、はっと顔を上げた。
継母の唇が震える。

藩主さまの声が、簾の奥から下った。

「裁きを申し渡す」

その場の空気が、一気に重くなった。

千景は膝をついたまま、両手を握りしめる。誠一郎さまは顔を伏せた。父と継母は、凍りついたように動かない。

「朝霧堂千景。禁薬を用い、香に妖毒を混ぜ、御前の場と城下の民を危うくした罪、重い。そそのかされたとはいえ、危険を知りながら止めず、小夜へ疑いを向けたことも明らかである」

千景の肩が震える。

「死をもって償わせることはせぬ。だが、城下へ戻すことも許さぬ。祓いの役人の監視の下、北の離れに幽閉し、妖との契りの痕を調べる。薬を扱うことは禁ずる」

「幽閉……」

千景の声は、かすれていた。

継母が崩れるように膝をついた。

「どうか、どうか千景だけは……!」

藩主さまは続けた。

「朝霧堂は、薬帳の管理不行き届き、禁薬の所持、薬蔵の隠蔽の責を負う。以後、藩薬所および城への出入りを禁じ、藩への納薬を差し止める。民へ薬を売ることも、しばらく役人の監督下に置く」

父の顔から血の気が引いた。

朝霧堂にとって、それは名を奪われるに等しい。藩へ薬を納める家という看板がなくなれば、店の暖簾は同じでも、中身はもう以前のままではいられない。

「誠一郎」

藩主さまの声がさらに冷える。

誠一郎さまは、びくりと頭を上げた。

「お前は千景に付き従い、調査を妨げ、証拠もなく小夜を貶めた。御前でなお己の保身を優先した。家の者へは別途沙汰する。しばらく出仕を控え、役目を退け」

誠一郎さまの膝が折れた。

彼の失ったものは、千景ほどはっきりした牢ではなかった。けれど、信用という目に見えない衣が、一瞬で剥がれ落ちたのが分かった。

千景は、その姿を見て笑った。

小さく、乾いた笑いだった。

「……結局、皆、私を見ていたわけではなかったのね」

その声に、誰も答えなかった。