「此度の妖毒、ならびに御前を騒がせた禍について、見たままを申せ」
簾の向こうの藩主さまが言った。
私は、膝が震えそうになるのをこらえた。
人前で、自分の見たものを言う。
朝霧堂では、それは叱られることだった。見間違い。妬み。無能の戯言。そう呼ばれて、いつも口を閉ざすしかなかった。
でも今、朔夜さまが隣にいる。
私の見た黒い筋を信じ、妖の芯を私の言葉の通りに斬ってくれた人がいる。
私は息を吸った。
濡れ布の匂い。薬湯の苦み。風に薄まった灰の匂い。
そして、朔夜さまの体に残る、深い禍の気配。
「はい」
私の声は、思っていたよりも静かだった。
「此度の妖毒は、朝霧堂の千景が用意した香炉から出ていました。妖毒は甘く焦げた匂いと黒い糸のかたちをしていて、それが喉に絡んで、息を塞いでいました」
かすかなざわめきが起きた。
若い薬師が、証拠として布に包んでいた香包みを差し出す。赤い糸で結ばれた薄紅の紙。先ほど御前で焚かれたものと、同じ色だった。
簾の向こうの藩主さまが言った。
私は、膝が震えそうになるのをこらえた。
人前で、自分の見たものを言う。
朝霧堂では、それは叱られることだった。見間違い。妬み。無能の戯言。そう呼ばれて、いつも口を閉ざすしかなかった。
でも今、朔夜さまが隣にいる。
私の見た黒い筋を信じ、妖の芯を私の言葉の通りに斬ってくれた人がいる。
私は息を吸った。
濡れ布の匂い。薬湯の苦み。風に薄まった灰の匂い。
そして、朔夜さまの体に残る、深い禍の気配。
「はい」
私の声は、思っていたよりも静かだった。
「此度の妖毒は、朝霧堂の千景が用意した香炉から出ていました。妖毒は甘く焦げた匂いと黒い糸のかたちをしていて、それが喉に絡んで、息を塞いでいました」
かすかなざわめきが起きた。
若い薬師が、証拠として布に包んでいた香包みを差し出す。赤い糸で結ばれた薄紅の紙。先ほど御前で焚かれたものと、同じ色だった。



