妖が斬られた後の御前の場は、ひどく静かだった。
少し前まで白幕を揺らしていた悲鳴も、逃げ惑う足音も、香炉から噴き上がった黒い靄も、風に洗われるように薄れていた。残っているのは、石畳にこぼれた薬湯の匂いと、濡れ布の青い木綿の匂いと、斬られた禍の名残だけだった。
甘い焦げ香は、もうしない。
けれど、完全に清らかになったわけではなかった。
倒れた兵たちは別室へ運ばれ、薬師たちが湯と布で手当てを続けている。白幕の裾には灰が散り、銀の香炉は黒い布で封じられていた。香炉のそばには、薄紅色の紙片と赤い糸が落ちている。美しかった儀の場は、春の宴の後ではなく、悪い夢から覚めた朝のようだった。
朔夜さまは、立っていた。刀を納め、まっすぐに、御前へ向いて。
その隣に、私も立った。
簾の向こうから、藩主さまの声が落ちた。
「朔夜。小夜。前へ」
その声は大きくはなかったのに、隅々まで届いた。皆が一斉に頭を垂れる。父も、継母も、誠一郎さまも。千景だけが、膝をついたまま、ぼんやりと香炉の灰を見つめていた。
薄紅の小袖は乱れ、珊瑚の簪は落ちている。御前で輝く薬師の姫だったはずの妹は、今は花びらを踏まれた人形のように見えた。
少し前まで白幕を揺らしていた悲鳴も、逃げ惑う足音も、香炉から噴き上がった黒い靄も、風に洗われるように薄れていた。残っているのは、石畳にこぼれた薬湯の匂いと、濡れ布の青い木綿の匂いと、斬られた禍の名残だけだった。
甘い焦げ香は、もうしない。
けれど、完全に清らかになったわけではなかった。
倒れた兵たちは別室へ運ばれ、薬師たちが湯と布で手当てを続けている。白幕の裾には灰が散り、銀の香炉は黒い布で封じられていた。香炉のそばには、薄紅色の紙片と赤い糸が落ちている。美しかった儀の場は、春の宴の後ではなく、悪い夢から覚めた朝のようだった。
朔夜さまは、立っていた。刀を納め、まっすぐに、御前へ向いて。
その隣に、私も立った。
簾の向こうから、藩主さまの声が落ちた。
「朔夜。小夜。前へ」
その声は大きくはなかったのに、隅々まで届いた。皆が一斉に頭を垂れる。父も、継母も、誠一郎さまも。千景だけが、膝をついたまま、ぼんやりと香炉の灰を見つめていた。
薄紅の小袖は乱れ、珊瑚の簪は落ちている。御前で輝く薬師の姫だったはずの妹は、今は花びらを踏まれた人形のように見えた。



