無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

人々は、声を失っていた。

千景は膝から崩れ落ちた。

薄紅の小袖が広がる。美しく結われた髪が乱れ、簪が落ちて乾いた音を立てた。妖が離れたせいか、彼女の顔から取り繕う力が抜けている。

「違う……」

千景は呆然と呟いた。

「私は、こんな……こんなことまで、望んで……」

それ以上、言葉にならなかった。

父が千景へ駆け寄りかけ、途中で足を止める。継母は青ざめ、口元を押さえている。誠一郎さまは、崩れた千景と、朔夜さまと、私を順に見て、何かを言おうとして何も言えない顔をした。

朔夜さまは刀を鞘へ納め、深く息を吐いた。

「……小夜」

「はい」

「生きているな」

その問いは、私に向けたものでもあり、ご自身に向けたものでもあるようだった。

私は頷いた。

「はい。朔夜さまも、私も」

朔夜さまの目元が、ほんのわずか緩んだ。

甘い笑みではない。けれど、氷に小さなひびが入るような、静かな緩みだった。