千景は、香炉のそばで立ち尽くしていた。
顔は白い。けれど、倒れた者たちを見る目には、恐怖よりも先に、焦りがあった。
「違う」
千景が呟いた。
「私の薬のせいではないわ」
その声は、最初は小さかった。
やがて、父と継母に聞こえるように、誠一郎さまに届くように、少し大きくなる。
「私の薬のせいではない。他の者の薬のせいでしょう。ほら、あの方の丸薬も、あちらの薬湯も、今日この場にはいくつも薬があるもの。香だって、皆が持ち込んでいるわ」
父が慌てて頷こうとした。
継母は顔を青くしながら、千景を守るように前へ出る。
「そうです。千景の薬は悪くありません。誰かが場を乱したのでしょう。あるいは、小夜がまた——」
「黙れ」
朔夜さまの声が、斬ったばかりの黒の残響をまとって響いた。
継母は息を呑んだ。
千景の背後の妖が、ゆっくりと膨らんだ。
その時、私は香の残響を見た。
顔は白い。けれど、倒れた者たちを見る目には、恐怖よりも先に、焦りがあった。
「違う」
千景が呟いた。
「私の薬のせいではないわ」
その声は、最初は小さかった。
やがて、父と継母に聞こえるように、誠一郎さまに届くように、少し大きくなる。
「私の薬のせいではない。他の者の薬のせいでしょう。ほら、あの方の丸薬も、あちらの薬湯も、今日この場にはいくつも薬があるもの。香だって、皆が持ち込んでいるわ」
父が慌てて頷こうとした。
継母は顔を青くしながら、千景を守るように前へ出る。
「そうです。千景の薬は悪くありません。誰かが場を乱したのでしょう。あるいは、小夜がまた——」
「黙れ」
朔夜さまの声が、斬ったばかりの黒の残響をまとって響いた。
継母は息を呑んだ。
千景の背後の妖が、ゆっくりと膨らんだ。
その時、私は香の残響を見た。



