その向こうで、朔夜さまの刀がまた閃いた。
黒い影が、御前の場の端で膨らんでいた。千景の背後から伸びた妖の影が、香炉の煙、人々の不安、兵たちの苦しみを喰って、さらに大きくなっている。朔夜さまは、それが人々へ伸びるたびに斬った。
斬るたびに、黒い禍の一部が朔夜さまへ流れ込む。
腕に黒い筋が増えていく。
手首から肘へ。肘から肩へ。首筋へ。
「朔夜さま……」
見てはいけない。
今、私は後ろを任されている。患者から目を離せば、彼らの息が止まる。
それでも、目の端で朔夜さまが苦しむのが見えた。
黒い筋が、首筋にまで浮かんでいる。斬るたびに、ほんの一瞬だけ眉間が歪む。けれど彼は止まらない。誰かの喉へ黒い手が伸びれば、それを斬る。兵の背後に靄が迫れば、斬る。簾の向こうへ向かおうとする黒を、身を投げ出すように斬る。
最強の武将。
人々はそう呼ぶ。
けれど私には、彼が黒い川の中へ少しずつ沈んでいくように見えた。
黒い影が、御前の場の端で膨らんでいた。千景の背後から伸びた妖の影が、香炉の煙、人々の不安、兵たちの苦しみを喰って、さらに大きくなっている。朔夜さまは、それが人々へ伸びるたびに斬った。
斬るたびに、黒い禍の一部が朔夜さまへ流れ込む。
腕に黒い筋が増えていく。
手首から肘へ。肘から肩へ。首筋へ。
「朔夜さま……」
見てはいけない。
今、私は後ろを任されている。患者から目を離せば、彼らの息が止まる。
それでも、目の端で朔夜さまが苦しむのが見えた。
黒い筋が、首筋にまで浮かんでいる。斬るたびに、ほんの一瞬だけ眉間が歪む。けれど彼は止まらない。誰かの喉へ黒い手が伸びれば、それを斬る。兵の背後に靄が迫れば、斬る。簾の向こうへ向かおうとする黒を、身を投げ出すように斬る。
最強の武将。
人々はそう呼ぶ。
けれど私には、彼が黒い川の中へ少しずつ沈んでいくように見えた。



