無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

御前の場は、すでに混乱していた。兵たちが香炉を遠ざけようとし、近習が藩主の簾を守る。薬師たちは顔を青くして自分の薬箱を抱え、患者として連れてこられた者たちは咳き込み、逃げようとして押し合っている。

「息の止まりそうな者を、こちらへ!」

私は声を張った。

自分の声だとは思えないほど、必死な声だった。

「熱だけの者は日陰へ。薬を飲んで腹を押さえている者は、水ではなく白湯を少しずつ。吐き気が強い者は横向きに。香を吸って喉が鳴る者は、私のところへ!」

薬師の一人が驚いた顔で私を見た。

「あなたは……朝霧堂の」

「手を貸してください。清い布と湯を。香炉を遠ざけて、風を入れてください。強い香を焚かないで」

相手は一瞬戸惑った。

けれど、目の前で小姓が喉を押さえて倒れたのを見て、すぐに動いた。

私は小姓のそばに膝をついた。

喉に黒い糸が絡んでいる。弥太くんより太い。香炉の煙を直接吸ったためだ。唇は紫がかり、目が涙で潤んでいる。

「大丈夫。息を全部吸おうとしないで。少し吐いて」

言いながら、私は布を湯で湿らせ、口元へ当てた。強い香を薄めるように、陳皮をほんの少し湯に移す。生姜は入れない。刺激が強すぎる。甘草をわずかに。喉を潤すために。

「一滴ずつです」

小姓は苦しげに首を振ったが、私は匙の先で唇を濡らした。

弥太くんの喉が動いた瞬間を思い出す。

焦らない。

一滴。
もう一滴。

三度目で、小姓の喉が小さく動いた。

黒い糸が少し緩む。

「そう。吐いて。咳は止めないで」

彼が咳き込む。黒い筋の混じった痰が布へ出た。私はそれを畳んで別の布で包み、他の者に触れさせない。

隣で中年の兵が呻いた。

腹を押さえている。顔色は悪いが、黒はない。

「その方は薬あたりです。横にして、帯を緩めて。白湯を少しずつ。吐きそうなら我慢させないでください」

別の薬師が頷き、兵を支えた。

その向こう、若い兵は熱でぼんやりしている。額が赤く、汗は熱い。黒い糸はない。

「熱の方は額と脇を拭いて。冷やしすぎないで。汗をかいたら布を替えてください」

声を出すたび、喉が痛む。

けれど、次の患者が運ばれてくる。

薬湯は薄くする。香は焚かない。周囲に残った香炉の煙を、扇で外へ流してもらう。布で口元を覆い、強い香をこれ以上吸わせない。胸の上に冷たすぎない湿布を当て、呼吸に合わせて軽く押さえる。

「吸うより、吐いて。そう、長く」

呼吸が乱れるたび、胸の黒が脈に絡む。

私は自分の呼吸を合わせた。

吸って。
吐いて。

弥太くんの時、母親に抱き方を変えてもらった。上体を少し起こし、胸を圧迫しないようにした。今も同じだ。背に畳んだ布を入れ、少しだけ起こす。

黒い靄が、ほんの少し薄くなる。

救えたわけではない。

ただ、今、息をつなげた。