城門の前には、すでに多くの者が集まっていた。薬箱を担いだ薬師たち。香木を納めた箱を運ぶ手代。控えの兵たち。御前へ召された町人の代表らしい年寄りたち。皆、晴れの場に相応しく身なりを整え、どこか浮き立った顔をしている。
薬と香の献上。
病に揺れる城下を鎮めるための、誉れある儀。
そう見えるはずの場に、私の鼻だけは、甘く焦げた匂いを嗅いでいた。
蜜を焦がし、黒い灰に落としたような香。
それはまだ薄い。風に混じれば、普通の白檀や桂皮の匂いと紛れてしまうほどに。けれど、一度知ってしまったら、その匂いを忘れられなかった。
「小夜」
隣で、朔夜さまが呼んだ。
今日は黒に近い藍の羽織ではなく、正式な黒の武装に近い装いだった。鎧ほど重くはないが、肩には硬い当てがあり、腰の刀はいつもより低く差されている。
「後ろに下がりすぎるな」
「……はい」
返事をしたのに、体は自然に半歩、朔夜さまの陰へ入ろうとした。
城門をくぐる者たちの視線が、私に刺さるからだ。
朝霧堂を追われた無能な姉。
死人を出したと噂された娘。
それなのに、朔夜さまの側に立つ花嫁候補。
そういう言葉が、声にならないまま私の肌へ降り積もる。人の視線には温度があるのだと、私はこの頃よく思う。温かいものもあれば、冷えた刃のようなものもある。今、私に向くものの多くは、後者だった。
「顔を上げろ」
朔夜さまの声が落ちる。
私は息を吸った。
薬草の匂い。香木の匂い。人の汗。馬の毛。磨かれた石畳に残る朝露の冷え。
そして、その奥にある黒い甘さ。
私は顔を上げた。
薬と香の献上。
病に揺れる城下を鎮めるための、誉れある儀。
そう見えるはずの場に、私の鼻だけは、甘く焦げた匂いを嗅いでいた。
蜜を焦がし、黒い灰に落としたような香。
それはまだ薄い。風に混じれば、普通の白檀や桂皮の匂いと紛れてしまうほどに。けれど、一度知ってしまったら、その匂いを忘れられなかった。
「小夜」
隣で、朔夜さまが呼んだ。
今日は黒に近い藍の羽織ではなく、正式な黒の武装に近い装いだった。鎧ほど重くはないが、肩には硬い当てがあり、腰の刀はいつもより低く差されている。
「後ろに下がりすぎるな」
「……はい」
返事をしたのに、体は自然に半歩、朔夜さまの陰へ入ろうとした。
城門をくぐる者たちの視線が、私に刺さるからだ。
朝霧堂を追われた無能な姉。
死人を出したと噂された娘。
それなのに、朔夜さまの側に立つ花嫁候補。
そういう言葉が、声にならないまま私の肌へ降り積もる。人の視線には温度があるのだと、私はこの頃よく思う。温かいものもあれば、冷えた刃のようなものもある。今、私に向くものの多くは、後者だった。
「顔を上げろ」
朔夜さまの声が落ちる。
私は息を吸った。
薬草の匂い。香木の匂い。人の汗。馬の毛。磨かれた石畳に残る朝露の冷え。
そして、その奥にある黒い甘さ。
私は顔を上げた。



