無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

その時、弥藤が帳面を胸に抱えたまま、静かに言った。

「薄墨の印と、この歪んだ印……。もしかしたら、月下の社をお訪ねになったら、何かわかるかもしれませぬ」

「月下の社?」

私は顔を上げた。

弥藤は頷いた。

「屋敷の北東、竹林の奥にある古い社でございます。今は社守が一人、形ばかりに守っておりますが、昔は薄墨の薬師と、禍を斬る武人が通った場所だと聞いております」

薄墨の薬師。
禍を斬る武人。

その言葉が、私と朔夜さまの間にそっと置かれたようだった。

朔夜さまの目がわずかに細くなる。

「行く」

その一言で、月下の社へ向かうことが決まった。