無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

外へ出ると、太陽の光が眩しかった。

けれど私の体は、ひどく冷えていた。

暖簾をくぐった瞬間、膝が笑いそうになる。朝霧堂の匂い、父の声、継母の視線、千景の笑み、誠一郎さまの言葉。それらが一斉に体の中へ入り込み、古い傷を一つずつ開いていった。

手が震える。

袖の中で隠そうとしても、止まらなかった。

朔夜さまは門の少し先で立ち止まり、私を振り返った。

「見たものを忘れるな」

慰めではなかった。
優しい声でもなかった。

「忘れれば、次に見た時に揺れる。見たままを覚えておけ」

私は唇を開いたが、声が出なかった。

朔夜さまは続ける。

「息をしろ」

その短い言葉に、私は初めて、自分がまた息を止めていたことに気づいた。

私は息を吐いた。

少しだけ、震えが弱まった。

「……はい」

ようやく返事をすると、朔夜さまは何も言わず歩き出した。

甘い慰めはない。

けれど、置いていかれもしなかった。