無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

薬蔵を出る時、父が私を呼んだ。

「小夜」

その声に、足が止まった。

振り返ると、父は苦い顔をしていた。怒りとも、困惑とも、どちらともつかない顔。

「お前は、本当にこの家を潰す気か」

胸の奥が、音を立てずに裂けた気がした。

潰す。

私は幼い頃、この家を誇りに思っていた。母と薬草を干し、父の背を追い、いつか朝霧堂の薬師として人を助けたいと思っていた。潰したいわけがない。

それでも、ここで作られた薬が、香が、人を苦しめているなら。

私は唇を噛み、静かに答えた。

「潰したいのではありません。……これ以上、誰かが苦しむのを止めたいだけです」

父の目が揺れた。

その揺れが何なのかは、分からなかった。怒りか、後悔か、それともただの保身か。分からないまま、私は頭を下げずに前を向いた。