無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

やがて、ひときわ大きな門の前で馬が止まった。

黒塗りの門。左右には鉄の鋲が打たれ、月の光を受けて鈍く光っている。門柱の上には、鬼瓦のような厳めしい飾りがあり、その影が地面に落ちていた。屋敷全体が、夜の中に沈んだ城のようだった。

黒鎧の屋敷。

噂でそう呼ばれていると、いつか水汲みの途中で聞いたことがある。朔夜さまの屋敷は、妖を斬った武具と禍を封じる札で囲まれており、夜になると壁が黒く見えるのだ、と。

門番が朔夜さまを見て、慌てて膝をついた。

「お戻りでございます」

その声が、私の姿を見た途端、わずかに止まった。

視線が刺さる。

泥だらけの裾。煤のついた袖。乱れた髪。細い包みを抱えた私は、どう見てもこの屋敷に入る者ではなかった。