馬は城下を抜け、武家屋敷の並ぶ通りへ入った。板塀が長く続き、白壁の上に松の影が揺れている。道は掃き清められていて、泥に沈んだ町裏とは別の国のようだった。けれど清らかなはずのそこにも、ところどころ、黒い靄が沈んでいた。
門の柱の根元。石畳の割れ目。古い井戸の蓋。
まるで夜が拭き残された染みのように、黒いものがじっと息を潜めている。
私は思わず身を固くした。
「どうした」
すぐ後ろで、朔夜さまが問う。
「……いえ。少し、寒くて」
嘘だった。
でも、どう言えばよいのかわからなかった。人の体に絡む黒い糸なら、まだ毒と呼べる。喉を塞ぐもの、脈を乱すもの、薬に紛れたものだと考えられる。けれど、石や柱や夜の隅に澱むものは何なのだろう。
それは私を見ているようだった。
こちらが気づいたことに気づいて、薄く笑うように揺れた。
門の柱の根元。石畳の割れ目。古い井戸の蓋。
まるで夜が拭き残された染みのように、黒いものがじっと息を潜めている。
私は思わず身を固くした。
「どうした」
すぐ後ろで、朔夜さまが問う。
「……いえ。少し、寒くて」
嘘だった。
でも、どう言えばよいのかわからなかった。人の体に絡む黒い糸なら、まだ毒と呼べる。喉を塞ぐもの、脈を乱すもの、薬に紛れたものだと考えられる。けれど、石や柱や夜の隅に澱むものは何なのだろう。
それは私を見ているようだった。
こちらが気づいたことに気づいて、薄く笑うように揺れた。



