無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

その日の午後、香包みは封をして、朔夜さまの蔵に納められた。陰陽寮へ渡す前に、屋敷の薬師にも見せるという。けれど誰に見せるにしても、直接嗅がせるなと、朔夜さまは厳しく命じた。

「香は薬にもなるが、毒にもなる」

私が小さくそう言うと、朔夜さまは短く頷いた。

「朝霧堂は香も扱うのか」

「はい。薬香、眠りを助ける香、虫除けの香……。千景は、香の調合も得意でした」

千景の名を出すと、空気がわずかに重くなった気がした。

私は慌てて続けた。

「でも、あの香包みが千景のものかは分かりません。印も、朝霧堂のものではありませんし」

言いながら、自分が千景を庇っているのか、恐れているのか分からなくなった。

千景は私を無能と呼んだ。私に罪を着せようとした。けれど、幼子の枕元に妖毒の香を置くようなことまで、本当にするのだろうか。そう思う自分がいる。思いたい自分がいる。

朔夜さまは、私の迷いを責めなかった。

「決めつけるには早い。だが、朝霧堂の薬と、この香が同じ場に現れた。それだけは事実だ」

「……はい」

「事実だけを見る。お前が見た黒も、匂いも、今は事実として扱う」

その言葉に、息が止まりそうになった。

私が見たものを、事実として。

朝霧堂では、一度もそう扱われなかった。勘違い、妬み、役立たずの戯言。そう言われ続けてきたものを、朔夜さまは机の上に置くようにして言った。

事実。

それは温かい言葉ではない。けれど、私の足元に畳を一枚敷いてくれるような言葉だった。