無能薬師の娘、最強武将の花嫁候補になります

庭へ出ると、夜気が肌を撫でた。足袋はすっかり湿って、足先が冷たい。けれど来た時よりも、庭の黒い澱みが少し薄く見えた。池のほとりの石にまとわりついていた靄はまだある。柱の染みも消えていない。

それでも、まったく変わらないわけではなかった。

水面に月が映っている。その光の周りだけ、黒いものが少し退いている。

私は自分の手を見た。

この手が、何かをしたのだろうか。

それとも、朔夜さまが少し息をつけたから、屋敷もまた息をついたのだろうか。

わからないことばかりだった。