ざまあをください【完結/改稿済】

「ばばばばばっ、バカ!! こんな、ちゅ……ぅ……するみてえな……っ。~~っ、ごごごご、誤解されたらどーする――」
「君が僕の主人公だ」
「はぁ!? ンなわけねえだろ!! 俺は――」
「君にはそれだけのポテンシャルがある」
「ねえって!!」
「いいから黙って、僕に『ざまあ』してよ」
「~~っ、あのな。()()()()()()()()()()()()――」
「お願い。助けて」

僕の手が、声が震える。
それと同時に少年の瞳も揺れた。

小学生相手に泣き落としだなんてホント情けない。
でも、僕はもう引けない。限界なんだ。もう。

「日に日に嫌なヤツになっていくんだ。今だってあんなことして」
「……っ」

『そんなこと言われても困る』
そう言わんばかりに、少年はぎゅっと目を閉じた。

やっぱダメなの。そっか。……そうだよね。
手から力が抜ける。そうしたら――。

「っ!」

ガッと手首を掴まれた。
濡れてる? これは……汗か。

彼は顔を俯かせている。
身長差があり過ぎて、表情が見て取れない。

「何――」
「じょじょじょっ、上等だ!! ややややっ、やってやるよ!!!」
「……えっ?」

ガクブルしながら宣言してきた。
おまけに涙目。まるでチワワだ。

物凄く頼りない。
これが僕の主人公(ヒーロー)か。

「ふっ……」
「わっ、笑ってんじゃねーよ!!」
「無茶言わない……でよ……?」
「? なっ、何だよ?」
「笑ってた? 今? 僕が?」
「おっ、おう」

自覚したらまた「ふっ」と笑みが零れた。

なるほど。流石は主人公様だ。
こんなにも早く僕から笑顔を引き出すなんて。

ホントここ四年ぐらいは、まともに笑ってこなかったんだけどな。

「…………マブ」
「え? 何?」
「なっ、ななななっ!!! 何でもねえーよ!!!」

彼はそう言って、半ば投げ捨てるようにして僕の手を離した。
いちいちやかましいな。
でも、そんなところも可愛い。

「ねえ。契約も成立したことだし、そろそろ名前を教えてよ」
「……っ」

途端に彼の表情が暗くなる。
あ、ヤバい。やらかした。

「ごめん。やっぱり君とはどこかで――」
永良(ながら)悟行(さとゆき)。永遠の『永』に、良い悪いの『良』、悟るの『悟』に行動するの『行』って書く。()()()()()()()()()の中三で、村山SS所属だ」
「………………………………それホント?」
「……何だよ」
「小学生じゃないんだ」
「~~っ、てめえ!!!!! 身長マウントも大概にしとけよ!!!」

根拠は身長だけじゃないんだけどな。
ぎゃうぎゃう吠える永良をしばらく愛でる……つもりだったのに、すっと正気に戻ってメダルを返してきた。半ば強引に握らされるような形で。

「…………」

遠ざかっていく手をぼんやりと見つめる。
それなりにゴツゴツしてたけど、温かくて……心地のいい手だった。
これも一種の主人公補正だったりするのかな?

「メダル、もう捨てんなよ」
「君次第かな」
「…………はいはいはいはい」

永良は顔面を覆うと、静かに天を仰いだ。
後悔してるの?
ふふっ、残念。もう手遅れだよ。
絶対に逃がしたりしないから。

「じゃ、またな」
「あ――」

『一緒に帰ろうよ』って言いかけた時には、既に永良の姿はなかった。
追うことも考えたけど、ぐっと我慢する。
これ以上欲張ると(ばち)が当たるような気がして。

「永良、ね」

突き返されたメダルを箱にしまう。
ほんのりと温かかった。メダルも。僕の心も。