ざまあをください【完結/改稿済】

プールサイドに両膝をついた。
ほっと息をついていると、色白でやたらと垂れ目な男の顔が迫ってくる。

厳巳(いずみ)!! しっかりしろ!!!」

近っ。うるさっ。汚っ。
唾メッチャ飛んでくるんですけど。

「おい、何だそのツラ」
「とても不快なので、離れてもらってもいいですか?」
「~~、テメエ……っ」

ブチギレる――かと思ったら、溜息をついた。
深く、それはもう深く。

「あぁ……っ、くそ……っ」

顔を俯かせて、乱暴に目を擦ってる。
まさか……泣いてるの?

キモいだとか、自分に酔い過ぎだとか、そんなふうに思いっきり蔑んでやりたいのにどうにも上手くいかない。

……調子狂うな。
このまま僕まで引っ張られて涙なんか流しちゃったりしたら、ますますおかしなことになっちゃう。

よし。僕はいつも通りにいこう。
そう固く誓って大きく咳払いをする。

「あの……さっさと永良の連絡先を教えてもらってもいいですか」
「ったく、お前ってヤツは」

コーチは少し湿ったような声で笑いながら、僕の額を小突いてきた。
いつものコーチらしい所作に少し……いや、大分ほっとする。

「約束通り永良の連絡先を教えてやる」
「ありがとうございます」
「ただ、先に言っとくぞ。アイツはもう競泳にはいない」
「は……?」

言っている意味がまるで分からなかった。
困惑する僕を宥めるためか、コーチは普段からは考えられないような落ち着いたトーンで話を続けていく。

「永良は元々飛込への転向が決まっていたらしくてな。あの日、初めてお前と会った日も、喝だけ入れてそのまま名乗りもせずに立ち去るつもりだったそうなんだ」
「ちょっ、ちょっと待ってください! そんなこと急に言われても――」
「ああ。受け止めきれねえよな。お前が永良から貰ったもんはあまりにも大きすぎる」

待って。待って。待って。
もう辞めるつもりだったのに、あんなに熱心に練習してくれてたの?
ダイバーとしての選手寿命を削ってまで?

「落ち着いたらきちんと礼を言えよ。いいな」
「簡単に言わないでくださいよ」

僕の心の中はもうぐちゃぐちゃだ。
喜ぶのは勿論違うし、かと言って怒るのも、悲しむのも違う気がしている。

答えを得るのにはあまりにも情報が不足し過ぎてる。
中でも重要なのは永良の動機だ。
それが分からないことにはどうすることも出来ない。

「体は……もういいな?」
「……はい」
「じゃあほらっ、まずはあれを片付けてこい」

コーチに促されるままインタビューブースに向かっていく。

帰国し次第直ぐに永良のところに行こう。
彼の性格を思うと、そう簡単には明かしてくれそうにないけど……でも、諦めるつもりはない。
僕は変わらず君と友達になりたいから。